表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
521/6734

500

 

 リエナさんは、湯気の立つお茶を、なみなみマグに注いで持って来てくれた。

「はい。飲んで。落ち着くわ」

「……ありがとうございます」

 うけとって、口をつけた。あたたかくて、お砂糖がたっぷりなのか、甘い。胃の痛みが少しだけ和らいだ。

 リエナさんが隣に腰かける。長椅子が不穏に軋んだ。リエナさんは冗談めかして云う。「あら、頑張ってくれてるわこの子」

 柔らかくてあたたかい手が、俺のせなかを優しく撫でる。お茶が半分になる頃には、吐き気はほとんど治まっていた。

「すみません。よなかにおじゃまして……」

「ううん。わたしみたいな女がよなかになにしたって、誰も気にしやしないわよ」

 リエナさんは手を下ろす。「なにしてたのって、訊いてもいい?」

 見られていたのだろうか。俺は、頭を振る。

 リエナさんは寒そうに化粧着の襟を掻き合わせた。

「あいつ、セロベルんとこに来てる取り立て屋よね」

「……ですね」

「あいつに、云われたの? その……返済のことで?」

 含みのある云いかただ。俺は小首を傾げる。

 リエナさんは、傍らに置いたランタンを、意味なく持ち上げてまた置いた。目を伏せる。

「セロベルの代わりに返せ、とか……その……か、体で?」

 ああ、そういう勘違いをされているのか。

 俺は小さく頭を振る。「大丈夫です。リエナさんは心配しないで下さい」

「そんな」

「ほんとに大丈夫です」

 お茶を飲み干した。マグを長椅子へ置き、立ち上がる。「お茶、ありがとうございました。おやすみなさい」

 リエナさんはなにかいいたげだったが、俺はそれを無視して、四月の雨亭へ戻った。


 用を足して、手と顔を洗って、歯を磨いて、服をかえて、寝た。

 目が覚めたのは夜明け前で、俺は身繕いをしてから市場へ向かう。昨夜吐いた所為か、気分が悪い。

 でも、市場で白菜を見付け、一気に気分がよくなった。白菜もあるんだ。もとの世界のものより小振りで、葉が随分縮れているが、おいしそう。ついでにケールとコンフリーも見付けたので沢山買っておく。ざく切りにして(さらに、コンフリーは下茹でしてから)炒め、ケールはお醤油、コンフリーはマヨネーズで食べるのがおいしい。マヨネーズがないから、ゆでたまごを潰してお酢・お塩・油・こしょうで和えたものをかけるかな。ケイパーの酢漬けとナスタチウムでも添えて。

 銀貨を渡して白菜をうけとり、収納空間へいれる。白菜は貴重らしく、かなり高価だ。対して、ケールとコンフリーの安いこと。どうしてこんなに安いんですかと思わず訊いたら、飼い葉だかららしい。おいしいのに。

 同じ括りで、アマランサスの束も売っていた。種子がついているからそれ目当てで買う。ぷちぷちおいしい。栄養価も高いし。

 代金を払ってアマランサスの束を収納していると、背後に誰か立って、俺の腕を無遠慮に掴んだ。

 びくついて振り仰ぐ。「……あ」

「おはよう」

 リッターくんだ。下まぶたが黒ずんで、いかにも寝不足という感じだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらも宜しくお願いします。 ループ、あの日の流星群
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ