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結論。悩む必要はなかった。
レントの中央辺りへ差し掛かると、西のほうから鐘の音が聴こえてきた。お祈りの時間にはまだはやい。
セロベルさんが速度を落とす。停まった。「ああ……畜生」
降ろされる。俺は自分のあしでしっかり立って、セロベルさんを仰いだ。
「どうしたの」
「締め切られた」
「え」
「もう集まったんだろう。お前、運が悪かったな」
ありゃ。
セロベルさんは俺の頭を撫でて、なぐさめてくれた。残念だけど、ウロアのことがあるし、よかったのかも。
来たみちを戻る。ヨーくんとマルロさんが、小走りに追ってきていた。ふたりには俺が奉公を目指していること、さっき募集が締め切られたことを説明した。ふたりとも口々になぐさめてくれる。好いひと達だ。
ヨーくん、マルロさんとはそこで別れ、俺とセロベルさんは薬工房へ進路をとった。セロベルさんは耳をへたらせて、残念げだ。「俺が補助じゃなく、教官まで昇進できてたら、下山してからでも推薦は出来たんだけどよ」
「いいですよ。奉公の募集って多いんでしょ?」
「そりゃあ、仕事が仕事だからな。やめるやつも多い」
わー、やっぱり労働環境がよくないみたいだ。もとの世界に戻る為と云え、我慢できるかなあ。
セロベルさんは腕を組んでいる。「……お前なら平気そうだな」
「え、どう云う意味です?」
「そのままだ。だとしても、後ろ盾はあったほうがいい。教員の推薦があるとないとじゃ、扱いが違う」
ふうん。そういうものなんだ。
どれくらいきつい仕事なのか、訊こうかとも思ったが、聴いたら気力が萎えそうで辞めた。いい職場だと思い込んでおこう。
薬工房は、あいていなかったが、ノックすると反応があった。
扉が開いて、メーデさんが顔を覗かせる。「おお、別嬪さん」
「おはようございます」
「サローが無茶を云ったな。すまん。さ、這入ってくれ」
なかへ這入る。なんだか、なにかをいぶしたみたいな、きな臭さがあった。
メーデさんは前と変わりない。痩せたとか、表情が沈んでいるとかは、なかった。
「いやあ、歳はとりたくないな。鼻が利かなくなるとは」
「お薬の材料、採ってきましたよ」
「ありがとうよ。サロー、お待ちかねのネコノツメだぞ」
奥からサローちゃんがすっ飛んできた。顔に、わかめのペーストみたいな、濃緑のどろどろしたものがくっついている。髪にもだ。そして、服が一部焦げていた。きな臭い。
「ありがと」サローちゃんは持ってきたざるを掲げる。「これにいれて」
求めに応じて、ネコノツメをざるの上へのせた。サローちゃんがほっと息を吐く。無表情だしぶっきらぼうだが、おじいちゃん思いの優しい子なのだ。




