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どうやら本当に水酸化ナトリウムの鉱床があるようだ。潮解しないのかよと思ったが、時折見付かっては採りつくされ、また別の場所へあらわれる、と云うことを繰り返しているらしい。還元の効果なのかもしれない。
水酸化ナトリウムは、個人だろうが商売だろうが採り放題。
「いいんですか、そんなことして」
「あぶらと混ぜるだけでいいやつだと大騒ぎになるけど、そうじゃなきゃめずらしくもなんともないからな。採っていくか? 還元士に頼めばせっけんにしてもらえるぞ」
普通につくりたいので、採っていくことにした。水溶液は濃度を低めればかんすいがわりにできるし。あ、そうだ、あれにつかおう。よしよし、おいしいものつくるぞ。
先客五人に挨拶して、まざる。なんとなくお喋りしながら、ごろごろ落ちている石を収納する。彼らはせっけんをつくって売る為に採りに来たそうだ。
それにしても苛性ソーダがこんなに簡単に手にはいるとは。この量買おうと思ったら結構なお金がかかるぞ。貧乏性なので沢山採ってしまう。厨房の棚の奥にあった酸化がすすんでる油、どうしようかなって思ってたんだよなあ。これでせっけんつくれば問題ない。手や食器を洗うくらいにならつかえるだろう。
「マオさん、楽しそうですー」
「えへへ。せっけんってあったら助かるじゃないですか。帰ったら仕込もう」
「仕込む?」
マルロさんが小首を傾げる。俺は立ち上がった。「はい。棚の奥に古い油があったので、それでせっけんをつくろうかと」
「つくる……って、還元士に頼むんですよね?」
「ううん、自分でつくる」
ヨーくんへそう返すと、きょとんとされた。あれはオリーブオイルっぽかったから、マルセイユせっけんができるな。
石を掴むのにつかった手巾を収納した。東の空が白んできている。「あー、もう朝になっちゃいましたね」
「あしどめされたからな」セロベルさんがレントのほうを向いた。「とっとと工房に行って、戻らねえと、朝飯に間に合わねえ」
欠伸をしながら東門を潜った。西門、というのがあるそうだが、見たことはない。御山へ通じているとかいないとか。
門衛とセロベルさんが、二・三言葉を交わす。俺は眠い目をこすった。
と、血相変えたセロベルさんが走ってきた。「マオ、急いで西門へ行け」
「へ?」
「下働きの募集がかかったんだよ!」
え。
茫然とする俺をセロベルさんは肩に担ぐ。そのまま走りだした。「せっ、せろべるさん」
「奉公したいんだろ! 次がいつになるか解らねえぞ」
それはそうなんだけど、でも、今はなあ。御山へはいりこみたいけど、ウロアのことがまだ中途半端だもの。うー、本末転倒だ。




