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俺を倒しに黒髪の少女が来たりしたらいやだなあ、とばかなことを考えているうちに食べ終えた。物足りないからクッキーをとりだす。ジーナちゃんとつくったやつ。
さっくりおいしい。マルロさんにも数枚渡した。男性陣は要らないそう。
「お前、あれだけくっといてよく……」
「? ……なんですか?」
笑みをうかべる。クッキーおいしい。「もんだいあります?」
「ないですよ、ねえセロベルさん」
ヨーくんが何故か焦りだした。セロベルさんは小刻みに頷く。いっぱい食べたってなにも問題ないよね!
マルロさんが、念のためにと、全員に恢復魔法をかけてくれた。足の痛みが和らぐ。恢復魔法って、非常識に便利だ。
おなかがくちくなったので、帰路につく。レントへは、街道に出さえすれば、さほど苦労はしない。
お水にはいったので、幾ら体を乾かして火の傍に居たとは云っても、体の芯が冷えている。くしゃみが二回出た。「大丈夫か」
「はい」
川原は石がごろごろしていて歩き辛い。薮にはいると少しだけましだった。下に草やつるがあるから、クッションになる。
薮を抜け、木の根の階段に辿り着いた。ニーバグが居たら面倒だなと思ったが、苦労して急角度の階段をのぼっても、ニーバグは居ない。静かなものだった。
街道に出るとほっとした。息を吐く。「朝が近いな。ゆっくり行こう」
俺の収納空間は時間停滞(もしかしたら停止)だし、サローちゃんは別の材料を準備しなければいけないと慌てていた。ゆっくりでも差し支えはないとセロベルさんは判断したようだ。異論はない。
「最近は満月が出ねえな」
「ですよね。月が出ない夜も増えてる」
「マルロ、月がない夜に生まれたですよ」
マルロさんは白い息を吐いて、首を反らして上を見た。「おかあさま、月が出ない夜なんて、それが初めてだったって云ってたです。今はよくあるです」
「あ」
レントまでもう少しのところで、ヨーくんが前方左を示す。「なんですかねあれ」
そちらを見た。ひとが居る。五人くらいかな。談笑しながら荷物を運んで、馬車につみこんでいた。布の袋で、重たそうだった。
「この辺りにせっけんの採れるところが見付かったろ」
「ああ、それかあ」
せっけんが採れる?
俺がきょとんとしたのを見て、セロベルさんが笑った。
「マオ、なんだその顔」
「……せっけんが採れるってなんです?」
「あ? ああ、還元したらせっけんになる石が採れるんだよ。あぶらと一緒に還元するとな」
水酸化ナトリウムの鉱床があるってこと?




