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襲いかかってきたりはしないのか。ならいいのでは。
俺の気持ちを読んだらしいセロベルさんは、ゆっくり頭を振る。
「あのな、あいつらの遊びってのは、みんなで楽しく踊ることだ。ここに居る魔物はあいつらだけじゃない。あいつらの求めに応じてどんちゃん騒ぎしてみろ。人間を食べるのが生きがいみたいな魔物が続々と集まる」
それはこわい。
かといって、避けて通ることもできないのだそう。道がないからだ。ニーバグ達が居る場所を突っ切れば、崖下へ降りる道がある。降りたら谷間だ。目覚めの滝は、すぐ東にある。川の流れが複雑なので、さっきまで横目で見ていた川が、ぐーっと北へのびて、ぐいっと折れ曲がって南東へのび、谷間へ注ぎこんでいるのだ。
そこ以外に、安全に谷間へ降りられる道はない。ついでに、谷間には魔物がうようよいる。
「ただし、たきつぼのすぐ傍に、魔物が近付かねえ場所がある。途中で魔物に見付かっても、そこへ逃げ込んでやり過ごす予定だった」
「夜、目覚めの滝に行く時は、そうするのが普通ですー。暫く隠れてれば、魔物さん達居なくなりますしー」
「でも谷間に降りる前に気付かれたら、どうしようもねえぞ。距離がありすぎる」
うーん。
もう一度つたをすかして、ニーバグ達を見た。可愛いんだけどな。
セロベルさんを振り返る。「あの子達、強いんですか?」
「個体差が激しい。目覚めの滝近くに出るのはそこそこ手強いやつらだな。っても、俺とヨーならあの数はさばける。やらねえけど」
「え? どうしてです?」
「あいつらは修復者のお気にいりなんだよ。こっちから攻撃したりしたらばちがあたるだろうが」
??
魔物なのに神さまのお気にいりなの?
この世界の動物には四種類ある。
1.開拓者とともに「よそ」から流入してきたもの。
2.もともとこの世界に居たもの。
3.こちらの世界で神さま達がつくりだしたもの。
4.「魔」にとりつかれ、もとの状態からかけ離れた姿かたちに変化したもの。
そのうちの4を主に「魔物」と云う。のだが、ニーバグのように、性質は悪くない(人間に敵対的ではない)のに、生まれつき魔につかれている者達も居る。それも「魔物」だ。
「ニーバグは智慧者にいたずらを仕掛けて呪われた。それで魔につかれてる。でも、修復者のお気にいりだったから、人間を襲うような悪さはしない」
セロベルさんが面倒そうに息を吐いた。「粗末に扱うとばちがあたる。ニーバグから襲われたり、きちんとした形式の試合だとか、鍛錬だってんなら話は別だけどな」




