ベッツィの話 2
かわった名前ね、とベッツィが笑うと、ライナイも笑った。あら感じのいいひとだわ、とベッツィは思った。正しくは、ときめいた、だ。
それから、還元に来てもらった時に、時折話すようになった。帝都から来た国府の官吏であるベッツィがなにをしようと、誰も咎めない。村の者はベッツィを、変わり者の女官吏、と捉えているようだった。
ある日、肥料にするために山で落ち葉や枝拾いをしていると、村の青年がライナイを追いまわしているところに遭遇した。青年はベッツィを見て逃げて行ったが、追おうとするベッツィをライナイが停めた。
何故停めるの? 侮辱されて。
ライナイは、悪いのは僕だから、と云って、はずかしそうに顔を伏せて走って行ってしまった。
村のひと達の云うように、男が好きなのだろうか。
若い男を誘惑して、堕落させているのだろうか。
そう考えるととても哀しい。ベッツィはライナイが好きになっていた。だから、女性に興味はないのだ、と思うと、哀しかった。
落ち葉や枝は、還元するといい肥料になる。
荒れ地の虫からつくる肥料程ではない。でも、手にいれやすさと費用の面では、落ち葉と枝に軍配が上がる。シアイルの東部には、肥料にできるような虫はあらわれない。
魔物の還元肥料、という手もあるが、魔物の体をまるまる還元できる還元士は多くない。荒れ地の虫は還元し易いけれど、シアイル東部の動物・魔物は体を毛皮に覆われたものが多く、毛皮は還元しにくい。一部だけ還元しても、肥料としてはいまいちだし、品質が安定しない。
赴任して暫く経ち、思ったような成果が上がっていないことに、ベッツィは焦りを感じていた。隣の群では巧くいった方法も、山ひとつ越えたこちらでは効果が出ない。標高の違いに原因があるのか、気温が問題なのか、水の質が違うのだろうか?
その上、ライナイのことがひっかかる。幾らなんでも、獲物の鹿のように追い立てられて、自分が悪いはないだろう。あの時は気が動転していたが、後になって考えてみるとおかしい。一体彼はどうして我慢するのか?
ある日、ベッツィは、肥料にするのに適した木や、畑に漉き込む為の土をさがし、山奥へとはいっていった。帝都にある学校では農業を専攻したが、魔法は必修である。魔物が幾らかあらわれたところで困りはしない。
魔物はあらわれなかった。が、ベッツィは困ったことになった。
ライナイが居たのだ。山奥でライナイは、魔法をつかって穴を掘り、どうやら池をつくっているようだった。それも、信じがたい速度で。




