ツァリアスの話 2
魔法で襲いかかってきた上級生を、初年度のツァリアスが返り討ちにした。
ツァリアスは、子どもと魔法で競うのははじめてだった。だから加減できず、大怪我をさせた。
なのに、先生達はツァリアスを庇ったし、友達も正しいのはツァリアスだと云った。
手を出したのはあちらが先でも、これはやりすぎだ。そう諭してくれる大人は居なかった。ツァリアスのちっぽけな罪悪感は、それでなくなった。誰も自分を咎めない。なら自分は間違っていないのだ。
でも心の片隅にずっとひっかかっていた。
だから、力のない人間が悪い、弱者が強者に歯向かうことこそ悪だと思い込んだ。
派閥をつくり、成績の悪い者、魔力の低い者をいびった。教師でも態度が悪いと、帝都に訴えてでも辞めさせた。自分が正しい人間だと思いたかった。誰にも頼らず、力を持っている、正しい人間だと。
ツァリアスは結局、上級生返り討ち事件を除き、在校中に五度の暴力沙汰を起こした。すべて、粛清、是正を名目としたものだ。
学校があるまちのホームレスを「立ち退かせようと」したのが二度、「絡んできた」不良を叩きのめしたのが二度、自分の方針に従わなかった生徒を「説得しようとしてやりすぎた」のが一度。
そして、そのすべてで、ツァリアスの正当性が認められ、咎められることはなかった。
「開拓者」はすべての「--者」の干渉を受けない。
その言動について嘘や間違いがあるか、裁定者が質問しても、答えは出ないのだ。そして、おおかたは「開拓者」の言葉が信用される。
そもそも、大きな災害・事件・事故を(「開拓者」にとっては決して未然ではないが)未然に防ぐのが、特殊能力としての「開拓者」が存在する理由だと云われている。何日後に地震が起きるとか、星が降ってくるとか、普通は解らないようなことでも、「開拓者」は一足先に体験している可能性があるのだ。「開拓者」のおかげで被害を最小限にくいとめた災害や事故は幾らでも存在する。
だから、開拓者は嘘を吐いていない、という前提のもとに、すべての話が展開する。嘘を吐けない訳でも、吐かない訳でもないのに。
ツァリアスは嘘を吐いてはいない。ただ、自分に都合のいいことだけを喋り、自分の主義主張をおしつけた。それは通った。そして、首席で学校を卒業し、そのままスムーズに御山へ進んだ。
ツァリアスはそれまでと態度を変えず、力を誇示し、派閥をつくって仲間とかたまり、気にいらないことがあるとかんしゃくを起こした。そして、初年度が終わり、職業を選んで宣言した。予定通り、魔導士になったのだ。




