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……って、遺体?
まじで?
ヨーくんはもごもご云う。「俺の地元、もがりって云って、ひとが亡くなってから、還元するまでに、何日か安置しておくんです。うちがその担当で……だから、見慣れてると云えば、見慣れてるんですけど。それでもあれは……酷い状態で……」
殺して、遺体を、とっておいたのか。
吐き気がしてきた。
セロベルさんの顔色が悪くなっている。そうか、こちらの世界では、遺体はすみやかに還元されるものだ。ヨーくんの地元が異質なのである。
「……あいつらは、間違いなく荒れ地おくりですよ。御山の判断を待つまでもありません」
「そうか……災難だったなお前ら」
「マルロが見付けたです」
マルロさんが涙目で云う。「図書室に、隠し階段があったです」
図書室……じゃあ、俺が見付けてた可能性もあった。
ラールさんが戻ってきた。目が充血している。
「ラール」
「ん。ありがとよ」
セロベルさんからマグをうけとり、ラールさんはお茶をぐいっと呷る。「……じゃあ、報告しなくちゃならねえから、失礼するよマオちゃん。ああそれと、リーニとなかよくしてくれてありがとうな。あしを洗わせてやりたいんだが、あいつ、五番区のちびどもから頼られちまっててよ」
「いえ……なかよくしてもらってるのはこっちですよ」
ラールさんは微笑んで、ありがとうな、と云った。
セロベルさんは、遺体が見つかったことに就いて語らなかったし、俺もなにも云わなかった。
五時のお茶は、スーシクとジャムにした。
スーシクは、小麦粉・たまご・お水・お塩を練って、小さなドーナツのような形にし、砂糖をいれたお湯で軽くゆがいて、半分はそのまま、もう半分は胡麻をまぶしてオーブンで焼く。それだけ。ジャムは、市場で買った、桑の実のもの。
素朴で単純な味に、量が多いところがうけて、いつもより数が出た。お土産にと買って帰るお客さんも多い。ひとりでつくるのは無理だったので、リエナさんに助っ人にはいってもらった。
リエナさんは手際がよくて、一度教えるとすぐにできる。
驚いたのは、秤のつかいかただ。普通と違って、リエナさんは秤を確認のためにつかっていた。小麦粉を200gボウルへいれて下さい、と云えば、袋からさっとボウルへ小麦粉を移し、測ると200gなのだ。
リエナさんの計量はまったく正確で、一度も間違わない。俺は目測が苦手なので、信じがたい能力だ。
お客さんのラッシュが終わった。砂糖をまぶしたスーシクとお茶で、一息吐く。
「リエナさん、凄いですね。秤いらないんじゃないですか?」
「やっぱり心配だから、必要よ」
リエナさんは含羞んで笑った。




