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お砂糖を加え、それが溶けてしまったら、火から外す。
ジーナちゃんは手鍋を鍋敷きの上へ置いてしまうと、ほっと息を吐いた。
「魔物と戦うより、ずっと疲れるわね」
「そうかな。でも、食べられるから」
「……それもそうね」
ジーナちゃんは肩をすくめ、くいっと首を傾げる。「あなたってほんとに変だわ」
パンが焼けるのを待つあいだ、お茶を淹れた。
ミルクで茶葉を煮出し、生姜やシナモンをいれ、お砂糖で甘くした。「お水でもおいしいよ。その場合は、香辛料は控えめにしたほうがいいかな」
「そう……」
「好みだけど。はい、どうぞ。飲んでみて」
お茶のマグを渡す。自分の分もいれて、お鍋をかける。お客さん用の食糧を用意しなければ。
ジーナちゃんがお茶をすすった。「……おいしい」
「よかった。じゃ、パンが焼けるまで待ってて」
ベーコンを焼き、たまごをいれて火を通す。できあがったら収納だ。
スープは、ジーナちゃんとつくったものがある。パンは沢山仕込んだ。くだものも焼いとこ。
ベーコンエッグをある程度仕上げ、くだものに移った。バターは毎日配達される訳ではない。レアディさんの都合がある。おいしいからいいのだ。
「おはよ……うわ吃驚した」
サッディレくんが這入ってきて、ジーナちゃんに気付くと飛び上がる。その後ろで、アーレンセさんも目を丸くしていた。
ジーナちゃんはぺこっと頭を下げる。「どうも」
「……マオ、お前」
セロベルさんは、驚いた様子は見せないものの、溜め息を吐いて投げやりに云う。「おはよう!」
「おはようございます。臨時の厨房担当です」
「そうかよ。茶、淹れる。サッディレ、運んでくれ」
「諒解っす」
鐘の音がかすかに聴こえる。お客さんもはいってきた。
ジーナちゃんは椅子に座ったまま、茨の冠を手繰りだした。声を出さず、目を伏せて。
アーレンセさんがものめずらしげにそれを見ている。耳打ちされた。「わたし、ディファーズのひとのお祈り、こんなに近くで見たのははじめてです」
「え、アーレンセさんってディファーズ系じゃないんですか」
「ですけれど、両親とも、不信心なので」
かみさまの名前と同じ特殊能力を持った娘が居て?
想像するとなんだかおかしくて、ちょっと笑ってしまった。アーレンセさんもくすっとする。
ジーナちゃんのお祈りは、三十分くらい続いた。
終わると、茨の冠をスカートへ隠す。剣と同じで、隠しポケットがあるらしい。
「はい」テーブルへ食器を並べた。「召し上がれ」
ベーコンエッグ、野菜ごろごろスープ、くだもののバター炒め、焼きたてのパン。簡単でおいしい献立だ。




