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「なんでもないよ」にこっとする。「ほーじくん、お話終わった?」
「ん。魔法、つかってみてって……壁、壊したか、訊かれた」
ぎっくう。それは俺の四散だな。ほーじくんが罪を被りそうになってる。どうしよ。
ほーじくんは首を傾げた。「でも、違うみたいって」
疑いが晴れたのならよかった。
リーニくん達が、すーっと馬車へ乗っていった。
「マオ」
「うん?」
「抱きしめていい?」
「あ、うん」
ほーじくんは律義に俺に断ってから、ぎゅっとしてくる。あったかーい。
「反省した」
「え?」
「僕、考えなしだったから。マオのいやがることは、しない」
ああ、さっきキスを拒否したことか。
いや、うん。あれはその、ハツァルとほーじくんが間接キスになるってのが無性にいやだったからの拒否であって、ほーじくんがいやな訳では。
うん?
ちがうちがう、ほーじくんは未成年だし、事案だからだめだって。ああでもちゃんと相手を尊重するところ、可愛い。
「あ、あのねほーじくん」
「うん」
「お、俺、ほーじくんの……ほーじくんの羽根拾っちゃった」
普通の人間で云ったら、髪の毛とか爪とか、に相当するのだろうし、それを拾われたとなれば気色悪いだろう。この子は俺の天敵なのだ。これで離れて行ってくれれば、こっちの気が楽……になる筈。「今も持ってるのっ」
ストーカ的発言だ。流石にきついだろう。
と、思ったのに、ほーじくんは尚更俺をぎゅっとした。
「嬉しい」
「え?」
「マオが僕の羽根を持ってるなんて。……だから、マオの場所が解ったのかも」
あれ? 声が震えてるよほーじくん?
ストーカ発言で震え上がらせる予定だったのに、ほーじくんは感激に打ち震えている。何故だ。
と。とりあえず、羽を持ってるのをゆるしてもらえたってことで、いいや。よくないけど。
馬車にのりこむ。簡単な幌がついているだけだ。警邏隊が大荷物で移動する時の為のものだそう。それと、犯罪者の護送。
リーニくん達はすみっこにかたまって、こそこそとお喋りしていた。俺はその傍へ座る。当然のようにほーじくんが俺の隣に来た。「なんのお話?」
「あ……えと、前金どうなるのかなって」
「あと、話を持ち掛けてきたやつらも捕まるのかなって。多分、知ってただろうし」
「ああ」頷く。「そうだね。そっか」
怪しいなあ、とは思っていたのだ。やけに気前のいい条件で仲介してくれたから。
生き証人さんは、調達係……なのかな。
「リーニくんは、別の縄張りの顔役から話がまわってきたんだっけ?」
こっくりと、リーニくんは頷く。「そのひとは多分知らないと思う。そっちの縄張りからも娼妓が何人か居なくなってて、そのひとは最近顔役になったばかりだから。別の仕事をこっちが譲ったから、筋を通すために持って来てくれたんだ」
成程。




