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ティーくんとリーニくんもやってきた。「マオ」
「さっき、あんなんでよかった?」
低声で確認されたのは、俺が、何故ここにいたのか、と訊かれた時のことだろう。ティーくんに庇ってもらって助かったので、こくんと頷く。
リーニくんは俺の頬をつつき、ティーくんは俺の腕を軽くつねった。「いて」
「マオー、なんだよ。ああいう相手がいたら、商売はいけないぜ」
「お前得してて腹立つ」
「え?」
「それとも、ティーみたく、なにか調べる為?」
「そうだとしても、隠しておきたいなら巧くやれよ。彼氏に減滅されなくてよかったな」
かれし。
違うよっ、と否定すると、三人はくすくす笑った。
どうやら、ティーくんが俺を庇ってくれたのは、ほーじくんが居たかららしい。云い淀んだ理由を、ほーじくんに隠れて商売していたからだ、と考えて。
「賭場通いもごまかしとくよ」
「俺が何回か連れてっただけってことにすればいいだろ」
「ティー、おとこぎあるねえ」
「煩い。マオ、俺はお前のこと餌につかおうとしたって云っとくからな」
「な。か、彼氏とか、そんなのじゃないよ。さっき云ったじゃん。ほーじくんは子どもだもん」
「ディファーズって、裾野と同じ?」
「おなじ」
「満二十一から大人だろ。そんなんすぐだ。よかったなマオ」
「祇畏士さまだから、好きな相手と添える筈だし」
「ずっと昔、娼妓と結婚した女の祇畏士さまが居たんだって」
怒涛の勢いだ。ええー。
なんでも、祇畏士は、途轍もない危険の伴う行をこなさないとならない為、みっつのことでどんなわがままも通るのだという。
ひとつ、血縁者との絶縁。
ふたつ、結婚、離婚。
みっつ、養子縁組。
いつ死ぬか解らない以上、もし死んでも憂いがないよう、という配慮で、これは世界各地で変わらない習慣なのだ。
血を分けた親兄弟子どもとであろうと、申し立てれば苦労なく絶縁できる。
そして、どんな者とでも、結婚したり義理の親子になったりできる。荒れ地送りになるような犯罪者とでも、である。
荒れ地送りになるクラスの犯罪者とでも自由に結婚できるのだ。同性なんで壁でもなんでもない。実際、過去には、女性祇畏士が妻を持つのが大流行した時期もある。
「だから、あれだけ好かれてたら大丈夫だよ」
「祇畏士さまに限って、酷いひとでもないだろうし」
「かわりに年柄年中、いつ死ぬかって心配してなきゃならねえだろうけど」
ティー、とリーニくんがたしなめた。ティーくんはぺろっと舌を出す。
俺は俯いて、両手で顔を覆った。「だから違うんだって」
「なにが?」
びくっと顔を上げた。
ほーじくんだ。左手を顔の前で、ぐっ、ぱっ、とやっている。




