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ちょっとぼーっとしてたら砂に埋まりかけた。昔からぼんやりなのだ。
いろいろ衝撃すぎて笑えてきた。くすくすしながら立ち上がる。フトマルヤスデって。
まださめないんだ。変な夢。
さく、さく、と、砂を踏みつつ歩く。方角? 解らん。歩いてりゃあ、最初の町的なところにつくんじゃないだろうか。RPGぽいし。なんとかなるだろ。
一時間くらいでへばった。砂の上を歩くの、尋常じゃなく疲れる。ずーーーーーーっと砂と岩山で、町らしきものが見えないのが辛い。歩くことに意味を見出せない。足の裏の皮がむけて痛い。景色が変わっているかどうかも、たまにもの凄い風が吹くからよく解らないし。
「……ちょこ!」
そうだ、チョコがあった!
収納空間を開いて、バッグのなかからチョコの袋を取り出した。二粒口に含む。甘くておいしい。ああ、夢遊病で、実際食べてたらどうしよう。虫歯になる。
チョコレートで気力が少々恢復した。再び歩き出す。水も買っておけばよかったなあ。咽が乾いた。「ぅわわわわ」
なんか踏んだ。ぐんにゃりしたもの。
飛び退る。すわやすでかと逃げようとしたが、呻き声に停まる。
駈け寄る。屈み込んで、砂を掻き分けた。……ひとだ。
「大丈夫ですか?」
呻き声が返ってきた。高校生くらいの男の子だ。カフェオレ色の肌で、マントみたいなものを体に巻き付けている。顔立ちは、アジアっぽくはない。
怪我をしているのか、脱水なのか、男の子はうんうん唸っていて砂から出てこない。腕を掴んで引っ張ってみた。「どこか痛いんですか? すみません、思い切り踏んじゃって」
「……に」
「煮?」
煮物の話かな?
「にげろ。虫が……」
「虫」
「く、くわれ……」
虫にくわれるぞと警告してくれているらしい。やすでさんならさっき撃退(事故)したが、あれクラスがうじゃうじゃいるんなら逃げたい。
だからといって、ほっぽらかしていくのはなあ。「まあまあ、掴まって」
「おれは、だめだ。あしをおった」
「ああ、怪我してるんですね」
だったらはやく云えばいいのに。
ポーチからがらす壜を取り出す。形は、痩せた雫型だ。首にタグがひっかかっていて、「傷薬(中)」と書いてある。中身は透明で、きらきらしている。
「えーと……」内服? 塗布?
栓を抜いた。試しに口に含んでみる。なんか……コリアンダーとローレルとミントを煮だしたみたいな……ハーブティみたいな味だ。ちょっとアルコールも含まれてる感じ。
ごくんと嚥みこむと、効果覿面。足裏の痛みが引いた。内服だな。「どうぞ」
「?」
「お薬です。どうぞどうぞ」
訝しげなのへずいと差し出す。服まない。
「……えい」
壜の口を唇に押し当てて傾けた。男の子がむせる。壜を引っ込めた。「おまえっ、いきなりなにっ」
「え、だって怪我してるっていうから。お薬」
「そうじゃなくて……ああん?」
男の子は振りまわしていた手を下ろす。数拍あって、その手をつくや、砂から抜け出してきた。おー、とわざとらしく感心して拍手する。
砂から出てくるとかなり身長がある。185cmくらい? あしなげえ。
立って、服についた砂を払い落とす。よしよし、案内人確保だ。
男の子はなんともいえない表情で、あしの具合を慥かめている。こっちは伸びをした。「んーっ。大丈夫ですか、あし」
「……まあまあ」
「ありゃまー、じゃあのこりもどうぞどうぞ」
薬をおしつけると、今度は素直に服んだ。壜を返してくれる。「ありがとう」
「いーえー。あのー、つかぬことをうかがいますが?」
「ああ……って、話してる場合じゃない、逃げるぞ」
「えっ」
腕を掴まれ、そのまま引き摺られる。「えー」
「また虫に出くわしたらことだ」
「ああ、はい」
……町に近づいてるっぽいし、いいかな?