386
偸利で恢復できた。やるぞー。
走る。上に行ってみようかな?
「四散」
背後の床につかった。もの凄い音をたてておちていく。いえい!
はしるはしる。未だかつてないくらいに走っている。体育の授業まじで嫌いだった。撮影で砂浜走らされた時は死ぬかと思った。それで動画じゃなくて写真なんだぜ?
階段を駈けあがる。「うーわ」
ここのお邸は相当に金がかかっている。なんと、がらすのはまった窓を発見した。分厚そうだし、均一な厚さではないっぽいけど、がらす。
しゃーねーな。「四散」
ぼんっ、と弾けた。窓周辺が。はなれたところに居たので俺は平気。がらすがきらきらしながら落ちていく。雨はやんだみたい。でも、雲はまだ沢山。月も星も隠されている。
外を覗いた。……四階? 五階? くらいかな。高い。リーニくん達逃げられてるといいけど……。
「いたぞ!」
情緒もくそもない。俺は振り向いて、飛びかかってきたハツァルの私兵の剣を、四散で弾けさせた。
手もいったみたい。ごめん。私兵は吹っ飛ばされて倒れ、手をおさえている。「恢復魔法を!」
「俺はいい! やつを捕まえろ!」
はいはい偸利々々。大人しくしててくださいね。
半分くらい倒れた。悲鳴が上がる。「なにが起こってる」
「お前なにをした?!」
「何者なんだ」
魔王っすね。
にーっと笑った。
「ここの旦那さんとそのお仲間に、ちょっと用事があっただけだ」
「女か?!」
ああ、つくり声だからね。
ふふふと笑う。「だったらなんだ? 意外だろ。旦那さんに用事があるって云ったら、ぴちぴちの男の娼妓だもんねえ?」
「な」
「いや、旦那さんが用事があるの間違いだったな。なんにせよ、こずるい手はいつまでも通用しない。すぐに警邏隊が来るから、ちゃんと考えてから喋れるように、それまで寝といたら?」
偸利をつかい、残りも眠らせた。
四散で壁や床を壊し、追ってくる私兵は禍殃か偸利で動けなくする。
それをくりかえし、逃げ続けた。三十分くらいかな。
幾つか発見。どの魔法も、対象までの距離に応じて、発動までにタイムラグがある。しかも、その間に対象が動いたら、不発。多分、見えない銃弾を飛ばしている感じ。禍殃はさほどのラグはないが、偸利は直に触れたほうが確実に当たる。ただし、偸利はすり抜けるっぽい。指定した対象にしか当たらないのだ。
流石に疲れて、目についた部屋にとびこむ。
おお。厨房みたい。かまどとオーブンがある。
俺は、食材やざる、かごが乱雑にまとめられている場所へ、もぐりこんだ。かごとざるとねぎやたまねぎにかくれ、俺は見えないだろう。足が痛いので靴を脱ぎ、靴下もはぎとる。仮面も邪魔くさいのでとった。
傍の廊下を数人走り抜けていったが、厨房には目もくれない。破壊工作をするのが目的と思われてるっぽいから、こんなとこに潜んでるとは考えまい。
ランタンを出し、熱を持って痛む足を見る。怪我はしていないみたい。両手でもんだ。警邏隊遅くね? 郊外なのかなあ。




