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ナジさんが本気で俺の異常を気にしていないのか、それともそういうふりなのか、それはどうでもいい。本当に。
そうじゃなくて……心配させてしまうのが心苦しい。井でお水を飲めば治ることなのだから、ショックをうけないでほしい。
そんなのみんなにはわからない。だからみんな口論したり、もめたり、泣いたりしてしまうのに。
このまま井のお水を手にいれられなくて、俺が言葉をとりもどせなくても、みんな普通に接してくれるだろうか。
井のお水を手にいれたからってどうにかできる保証はない。
俺は開拓者を信用できていない。ロック解除の条件が本当かどうか、誰にわかるって云うんだ?
よく知っている筈のほーじくん達の行動でさえ、変なふうに疑ってしまう瞬間があるのに、開拓者なんてどうやって信用したらいいのかわからない。神さまがそこまで意地悪なことをする訳がない、と思うしかない。
こうやって、それなりに意地の悪い天罰をくらっているのだが。
楽しそうな叫び声が聴こえてきた。俺ははっとしてそちらを見る。村で一番大きな建物のなかから、それは聴こえてきた。出入り口付近には丁稚さん達が数人居て、にこにこしている。ナジさんが彼らになにか云い、笑いが起こった。丁稚さんが云い返し、ナジさんが大袈裟な身振りでおどけた様子をする。なお、笑いがひろがる。
ゆっくり近付いていった。
あの建物は、以前ここに居た時、お昼にみんなで集まってご飯を食べたりした場所だ。俺がレントへ向かう前にはここで、女性陣に教わってチュニックや下着を縫った。馬車の話や、貝貨の価値についても、ここで聴いたのじゃなかったかな。
オーブンの場所はついぞ、わからなかったが、ここには数回足を運んだ。ダストくんの家からはちょっと距離があるけれど、大きなテーブルがあり、作業台に適しているのだ。布をひろげて奥さん達がお喋りしながら裁断してくれた。
ええと、寄り合い所、みたいなところだと思う。ここでご飯を食べたり、お裁縫したり、持ってこられる作業をこなしながら、井戸端会議をしているという感じ。
どこの誰がどうした、誰が病気だから助けなきゃ、とか、そういう会話を、収穫に出ないひと達がしているのだ。
女性に限ったことじゃなく、男性もつかう場所みたいなのだが、俺が行くと大概のひとは逃げてしまっていた。女性達が軽く目を遣ると、さーっと出ていくのだ。
今になったら、その意味はよくわかる。俺の格好が問題だった、ということだ。ピアス穴なしの耳に、短い髪じゃな。




