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マオは喋れない、こちらの喋っていることも理解していない、と、ユラちゃんはそう説明したんだと思う。ナジさんに手をひかれて、懐かしいダストくんの村に足を踏みいれ、歩く間、村のひと達は微笑んで頷いているだけで、俺に喋りかけようとはしない。
ハーバラムさんや、ほかのひとから聴いた話を思い出した。荒れ地近くの村は、程度にかかわらず、障碍のあるひとに対して優しい。
生まれつきの障碍でも、怪我や病気が原因でも、歳をとって体が不自由になったというひとでも、分け隔てなく接する。それは、荒れ地という厳しい環境の場所の近くで暮らしていること、荒れ地から魔物がやってくること、そして生活の糧を荒れ地で得ていることなど、常に「自分がそうなるかもしれない」情況だからだ、と。
なにもないふりもしないけれど、俺が喋れず聴きとれないことにあからさまにがっかりもしない。それはとても優しいことに思える。
居なくなっていたバドさんとリーリさんが、前方にあらわれた。リーリさんが手をあげて大きく振ると、ヤームさんがなにか云いながら、にこにこ顔で走っていく。シアナンさんもそれに続いた。
セムくんは、どこかで寝かせているのかな。ダストくんが小走りに戻ってきた。ほーじくんへ近寄っていって、気易い調子で腕を掴む。ダストくんは機嫌よそうに笑っていて、ほーじくんはちょっと戸惑ったふうだ。二・三、言葉を交わしたと思ったら、ダストくんは強引にほーじくんと腕を組んで、バドさん達のほうへつれていく。ほーじくんはたたらを踏んでついていった。
ドールさんが、カルナさんミエラさんの腕をとって、ダストくんに続いた。ドールさんらしくないみたいな、大きくて開けっぴろげな笑みをうかべている。ラトさんはリッターくんとニニくん(ふたりは並んで歩いていた)を捕まえ、丁稚さん達がサーダくんとネクゼタリーさんをつかまえて、やっぱりつれていった。
俺は左に居るナジさんを見る。ナジさんはくすくす笑った。身振り手振り、それに声は出さないけど口を大きく動かして、なにか云ってくれる。ナジさんの気遣いは嬉しかったが、わからない。
ナジさんはでも、がっかりした様子は見せず、俺の肩を優しく撫でた。数回頷いている。
別にユラちゃんが悪い訳でも、サーダくんが煩わしい訳でも、ニニくんがいやな訳でもない。そんなことは絶対にない。
でも、ナジさんになんでもないような顔をしてもらえたことで、いきなり呼吸が楽になった。




