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口を開き、ダストくん、と云いかけて辞めた。ダストくんには、「ダスト」はわかっても「くん」はわからない。俺が妙な言葉を喋ったと思われたくない。
「マオ」
横合いから誰かに抱きしめられた。俺は戸惑ってそちらを見る。……ナジさんだ。涙ぐんで、すぐに離れ、顔を乱暴に拭っている。
頭を撫でられた。ダストくんだ。ダストくんへ目を戻すと、彼は涙を流していた。
もう一度、抱きしめられる。今度は優しくだ。おれも、ダストくんを抱きしめた。スパイスの香りは、ドールさんの調合したものの匂いが染みついているのだろう。甘くて、爽やかで、ちょっとからい香り。
ダストくんもナジさんも、俺を心配してたんだ。
いたたまれない。
ほーじくんやユラちゃん達、ニニくん達三人、それにネクゼタリーさんとサーダくんは、少し離れたところに立っている。俺のまわりには、ダストくんの村のひと達が集まっていた。
俺達はようやく、荒れ地を脱出したのだ。
セムくんにぎゅっとされながら、ニニくん達を見ると、その額にはもうなにもなかった。ぼーっとしているニニくんにタスが近付いていって、なにか喋りはじめる。カルナさんとミエラさんがふたりから離れていく。
セムくんは泣きじゃくっていて、俺から離れないので、ダストくんがひっぱってひきはなした。セムくんはダストくんにしがみついて、なおも泣いている。俺が居なくなって、セムくんはひどいショックをうけていたのかもしれない。
バドさんとリーリさんが、ヘジャブや袖で目許を拭いながら、やってきた。ふたりに同時に抱きしめられる。ふたりはすぐに離れ、シアナンさんが俺をぎゅっとする。シアナンさんは相変わらずひょろっと背が高くて、抱きしめ返したらどこかの骨が折れそうだ。
でっぷりふとったヤームさんは、涙をぼろぼろこぼしながらやってきて、ぎゅーっとしてくれた。俺もぎゅーっとする。ヤームさんはお菓子の匂いがする。小麦粉の香ばしい香りがする。
ラトさんは相変わらず豪快に笑っているが、目には涙がきらきら光っていた。軽く抱きしめられ、頭をぐしゃぐしゃっ、と撫でられる。
はにかみ屋さんのドールさんも、ヘジャブで涙を拭いながらやってきて、抱きしめてくれた。なにかささやかれたが、意味はわからない。表情や声の調子から、神さまに感謝を伝えているのだと思う。
名前を覚えていない、サイン商会の丁稚さん達も、それぞれ抱きしめてくれた。俺がほんものかたしかめるみたいに、俺が居なくならないかたしかめるみたいに。




