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けん、とエクシザが鳴く。
「ごめん、とびだして」
もの凄く久々に喋った気がした。
壁の内側に居ると、日差しがまともにあたるのだが、俺にとって丁度いいことに風が砂をまきあげていて、それが日光を遮っている。ずっとではないが、ほとんどの時間そうだ。だからたいした被害はない。きちんと布も被っている。
エクシザは俺の隣に座って、まるくなっていた。けん、と鳴くけれど、別に俺に返事をしてくれたのではないだろう。
膝を抱えた。しばらく動きたくない。じっとしていたい。なにもしたくない。なにかすれば、それが酷いことになって返ってくる気がする。頬をはらしたニニくんとそれを抱きすくめているネクゼタリーさんというような。
砂まじりの風のなかから、さそりがずりずり出てきた。エクシザが反応するが、攻撃にはいる前に俺が偸利をつかってさそりをひからびさせる。エクシザは文句を云いそうなものだが、不満そうな様子はひとかけらも見せなかった。
「俺、疲れてるみたい」
また、さそりが出てきた。偸利で殺す。「言葉が通じないってストレスだね。よくわかった。しかも俺、これまで完璧に通じてたから、みんなもそのつもりだもん。めったなことできない」
安易に頷いたり、頭を振ったり、できない。
ほーじくんがなにを喋っているのかだけでも知りたかった。
もしほーじくんが、マオはぼくのことすきじゃないの、と云っているのにわからないで、頷いたりしたら、死にたくなる。
村のある場所が砂まみれになっても、なんとか粘ることってできないのだろうか、と思っていたけれど、そういう問題ではない。
わかっているつもりでなにもわかっていないのは俺のいつものことだ。わかったつもり、知っているつもり。
さそりは俺の気配や匂いがわかるのか、エクシザを目安にしているのか、それとも単にここが彼らの縄張りで俺が侵犯したのか、絶え間なくぞろぞろとやってきた。
俺は椅子の脚だったと思しい木材を拾い、意味もなく砂をほじくり返しながら、出てくるさそりを偸利で殺し続けた。エクシザやタス、ほーじくんが、熱中症状態なので、体力も魔力も譲渡しておく。たまに、収納空間から魔力薬をとりだして、犬歯で潰して食べた。まずい。
エクシザは俺の隣に居るのに、俺なんて居ないみたいにふるまった。それはエクシザなりの優しさなのだと思う。食欲が優先している人間だから、エクシザのことはなんとなく理解できる。食糧を頻繁にくれる人間に対して、いつまでも生意気な態度はとれない、ということだと思う。
口のなかの砂をぺっと吐いた。




