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もうどうにでもなれ。
自分がもめごとをひきおこしているらしいことは、うすうすわかっている。俺が喋らなくなった、言葉を理解できなくなったから、すべてがぎくしゃくしている。全部がおかしくなっている。
みんなも変だし、俺はここに居るなかで一番おかしい。
気の休まるひまがない、気の休まる場所がない。
天罰とはよく云ったものだ。
これは本当に、罰と云える。
とてもつらい。
背後でエクシザがけんと鳴いた。
俺はとぼとぼ歩いている。俺の体力で、荒れ地で長時間走っていられる訳がない。
でも、馬車から離れようとしている。
とにかく……ひとりになりたい。ひとりで居たかった。ひとりで、なにも気にせずに、じっとしていたい。
じっとしていたくて走ったというのもおかしな話だ。
たったのふつかだけれど、気の休まる時間がなかった。不用意にあちらの言葉で喋らないか、なにかおかしなことをしないか、置いていかれないか、そんなことをばかみたいにずっと心配していた。
ばかだからだ。
少しでいい。少しでいいから、ひとりでじっとしていたい。言葉が大切なコミュニケーションツールだというのはよくわかったから、もう天罰を解いてほしい。火薬のことなんて喋らないから。
猛烈な風が吹いて、俺はその場にふんばっていられず、ころっと転がった。砂の上で、なんとか、埋まらないようにもがく。
風がおさまって、俺は砂から這い出た。
眼前に家があった。
廃墟、だと思う。昨夜、見えていた家だ。ああ、案外遠かったのだな。それとも、荒れ地ではそんなにすばやく移動できないんだろうか。ずっと砂だから、自分達がどれだけすすんでいるかさえわからなくて、神経は摩耗していた。
近付いていく。多分、村の址だ。
土壁に触れる。屋根はなくなってしまっていた。壁の下のほうには、れんがもつかわれている。
俺が触れた壁は一面、しっかり残っているみたいだったが、横へまわりこむと斜めに崩れた壁が目にはいった。あとの二面は残ってもいない。
崩れた壁から覗きこむと、すぐ傍にふた口のくどだったらしいものがある。ダストくんの家にあるものと、似た形をしていた。やっぱり、もと・村だ。
のりこえられそうなくらい、壁がなくなっているところまで歩いていって、なかへ這入った。くどの傍に、大きめの木材が吹きだまったようになっている。屋内にあった家具の残骸だろう。無事な壁と斜めに残った壁の角にある。
俺はまったく無事に残っているらしい壁へ近付いていって、座り込み、その壁に背を預けた。頭がぐちゃぐちゃになっている。




