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俺はそれ以上その光景を見ていられなくて、這いずるようにして馬車の前方へ戻った。
言葉がわからないからなにも判断できない。なにが、あのふたりがなにを話していて、なにについてもめていて、なにが問題なのか、わからない。だから俺はなにもできない。なにも。
それにニニくんは頷いた。同意した。それなら俺はなにも云えた立場じゃない。邪魔することはできない。
違う。
ほーじくんのお兄さんともめたくない、という気持ちがある。
ほーじくんのお兄さんが、なにか酷いことをするひとだと思いたくない、という気持ちもある。
だから逃げだ。俺は逃げた。逃げている。責任をとりたくない。とれない。ネクゼタリーさんを不用意に責めて、きらわれたくない。
ほーじくんにきらわれたくないんだと思う。
どれくらいそんなばかみたいなことを考えていたのかわからない。
俺は立ち上がって、トゥアフェーノ達を軽く撫でた。ありがとう、と、口のなかで云う。トゥアフェーノ達は理解した様子ではない。
俺はなんとなく頷いて、日光のなかを後ろへ向かった。勿論ふたりに突撃するような勇気はない。俺は臆病で卑怯だから。ひとに責任を転嫁する。
俺はユラちゃん達の馬車のステップに立って、ドアを軽く叩いて開いた。具合がいいことに、ほーじくんは出入り口傍の席に座っていて、俺を見ると腰をうかせた。
ほーじくんの手首を掴み、ひっぱる。ほーじくんは戸惑ったみたいだけど、俺がぐいぐいひっぱるので、杖を持たずに馬車から降りる。「マオ」
俺はついと、ここから見て馬車の裏になる方向を示す。
馬車は、多分荒れ地仕様なのだ。砂がはいりこまないように密閉性が高く、魔物にやられないように分厚い。だから、外の音は聴こえにくい。ニニくんとネクゼタリーさんみたいにほとんど唇を動かさず、静かに喋っていたら、馬車のなかには聴こえない。俺がニニくんの声に気付いたのは、ヨヨにお菓子を渡す為に体を半分外に出していたからだ。
だからほーじくんも、ほかのみんなも、気付いていない。
それとも気付いていて無視しているのだろうか。
俺はどうしてだか笑ってしまいそうになった。
マオ、ともう一度、多分戸惑いながらほーじくんが云って、俺はその腕を強く掴んでひっぱり、馬車の後ろを通って反対側へ至った。
ネクゼタリーさんはニニくんを抱きしめて、なぐさめるみたいにせなかを撫でていた。
ほーじくんの顔色がかわった。




