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サーダくんは多分、もうひとつの馬車に居る、と思う。昨日は気分が悪そうだったし、今日は無理に滅却をしたりしないでほしい。
資材を仕舞ったので、収納空間の口を閉じる。
ヨヨは、収納空間にいろんなものを放り込むのが楽しかったらしい。小さなシンバルをとりだして、かちゃかちゃやっている。ヨヨも収納空間持ちだが、レベルは高くないみたいなので、俺の収納空間が面白くてたまらないのだろう。その気持ちはわからなくはない。収納空間になんでもぽいぽい放り込むの、ストレス解消になるよな。
俺は微笑んで立ち上がり、ヨヨの頭を軽く撫でる。クッキーの包みをさしだした。お礼を云いたいが、言葉が出ないので、これで勘弁してもらおう。ヨヨはクッキーの包みを自分の収納空間へいれ、シンバルを打ち鳴らして、みゅー、みたいな声を出した。可愛い。
ちょっとヨヨの頭を撫でてから、簡易トイレの衝立を撤去しようと振り向く。背凭れの高い椅子に布をかぶせただけのものだが、あったほうが安心できるのでいつも設置している。やっぱり、無防備な場面だから、隠れておきたいものなのだ。魔物が来たら、とりあえずは盾にできそうだし。
背後の砂山の隙間に、ネクゼタリーさんの特徴的な色の髪が見えた。
血の気がひいた。
俺はそちらへ向かった。ヨヨがシンバルを鳴らしながらついてきたが、一回俺の前に出てぱっと表情をくらくし、シンバルを仕舞いこむ。そのあとは、後ろを静かについてくる。俺はなにも云わない。今はヨヨに言葉は通じない。
ヨヨ以外にも。
大きく風が吹いて、道がなくなってしまった。荒れ地の風は厄介だ。
風に邪魔をさせるつもりはない。俺は砂のなかに手をつっこんで、収納空間を大きく開いた。手が痛かったが、なんとかなる。怪我がひどかったら、あとでヤラに治療してもらえばいい。
砂時計のように、砂がさらさらと崩れ、収納されていく。もう二ヶ所、収納空間の口を開くと、速度が上がった。風がふきつけて砂を山にするのと、俺の収納空間がここに道をつくるのと、どちらがはやいだろうか。
三十秒もせずに、首尾よく砂山がふたつに分かれたので、収納空間の口を閉じた。風が不気味に凪いでいる。荒れ地でここまで風がないのは、はじめてかもしれない。
砂山のすきまを歩く。ヨヨがなにか云うが、俺は振り向きもしない。
砂山をまわりこむと、座りこんだネクゼタリーさんがニニくんをきつく抱きしめていた。ニニくんは泣いている。その声はくぐもっていてよく聴こえない。ニニくんの顎に血が垂れている。




