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なにか、もめている、らしい。ニニくん達の額の印が原因なのか、それともタスがレットゥーフェルだからなにか云われたのか。
でも、サーダくんがここでそういうことを云うとは思えない。このタイミングで云うのなら、会った段階で云っているだろう。あの時、ニニくんの額はさらされていたし、タスだって見た目で人間ではないとはっきりわかる。
サーダくんはとても優秀な祇畏士なのだから、レットゥーフェルを見たことはあるだろうし、ならタスがレットゥーフェルだともわかったのじゃないか。実際に見たことがなくても、勉強するだろう。
だから今更、サーダくんが、ニニくん達が罪人であることや、タスがレットゥーフェルであることをあげつらうとは考えられない。そうだとしたら意味がわからなすぎる。
それとももしかして、ハイオスタージャ家のことでなにか?
原因も、どんな云い争いだったのかもわからないが、雰囲気は確実に悪くなった。
サーダくんはほーじくんの袖を掴んだまま眠ってしまって、ネクゼタリーさんが心配そうに額を撫でてあげている。ニニくんはタスが外につれだし、ヤラがそれを追った。ニニくんはなんとか矛を収めようとしているみたいだし、ネクゼタリーさんが謝っていたようだけど、サーダくんはまだなにか云いたそうだった。それよりも涙と眠気が勝った、というだけに見える。
俺は食糧を並べながら、サーダくんの様子を見ていた。なにか大きなショック、不安が、彼を苛んでいるらしい。そしてそれは、多分俺が言葉を失ったのが理由だ。
もしかしたら、言葉が通じなくなる、という天罰があるんだろうか。
バベルの塔じゃあるまいし、そんなことするかな。効率もよくない気がする。それに、俺はメニューを開けるから井のお水でなんとかなるとわかるけど、もしこちらのひとの言葉も封じようとすればできるのだとして、治しかたがわからなかったら大変なことになるじゃないか。
あ……でも、そっか。昔から、転移者は沢山居た筈だ。タオラ・シェンバールもそうだった。ということは、そういうひと達があちらの知識をもたらそうとして、一時的に言葉を封じられることは、今までもないことではなかったのかもしれない。
俺みたいに、異世界から来たんだ、と素直に喋る人間は少ないのかも。それに、そう云ったとしても、そのことを記録に残すひとが居なかったのか。それで結果として、天罰で一時的に言葉がわからなくなった、という伝承だけが残った、という可能性もある。




