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馬車はゆっくりすすんでいく。
馬車のなかには、しっかり梱包された、小包のようなものが幾つか積んであって、俺がつかったのと反対の扉はその荷物が邪魔でつかえないようだった。おそらくは、食糧やお薬だ。ユラちゃん達が持ってきたのとはサイズがまったく違うが、サーダくんは行に慣れているからどれくらいの物資が必要かわかるのだろうし、トゥアフェーノは二頭しか居ないから餌は少なくてすむ。
ネクゼタリーさんは、御者をしている、と思う。俺が馬車にのる前に、御者台に座っていたから。サーダくんは俺の向かいで、泣き腫らした目をたまにこすっていた。もう片方の手にはしっかりと、膝に置いた杖が握られ、せなかの羽は元気なくさがっている。こころなし、羽につやがない。
ほーじくんは俺の隣に居るが、杖を抱えて黙っていた。ほーじくんとサーダくんの会話もない。
少し行くと馬車が停まり、サーダくんがなにか云ってから億劫そうに出ていく。ほーじくんは俺の手を握って、じっとしていた。魔物が出て、ほーじくんが俺の護衛に残ってくれたんだろう。
サーダくんは溜め息を吐きながら戻ってきて、座席に座り、俺から顔を背けてしばらくすすり泣いていた。ほーじくんの手に力がこもっていく。
馬車は数回停まり、その度にサーダくんが外へ行った。サーダくんは祇畏士だし、滅却をつかえる。同じ祇畏士であるほーじくんが毎回残ってくれるのは、俺がそれに安心すると考えてくれているから、かなあ。でも本当に、ほーじくんが居てくれたら、安心する。
言葉がわからないというのはつらい。俺はあまり、できた人間じゃないから、相手がなにを喋っているのかわからないと、悪い内容を想像してしまう。
夕方くらいには、俺はひどい気分になっていた。酔いもあるし、サーダくんが哀しそうなのを見ていられない。サーダくんは俺が喋らないことに、どうやら相当なショックをうけたみたいで、会話もなにもないし馬車がゆっくりだけれど確実にすすんでいる時に、唐突に泣きはじめるのだ。それも、声をたてず、静かに涙をこぼし、しばらくすすり泣く。そんなことが何回もあった。
ほーじくんがなにか云うが、サーダくんは頭を振るだけだ。
いたたまれなくなって、収納空間からやわらかいタオルをとりだし、サーダくんへ渡そうとする。サーダくんはなにか云って、タオルを拒んだ。そういう仕種に見えた。しつこくタオルをさしだすが、サーダくんは今度は激しく頭を振ってうけとらない。俺からタオルをかりたくない、ということかもしれない。




