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外は尚更、くらくなっていて、星明かりが豪勢だった。おじさんの旅館は田舎だけれど、ここまでの星は見られない。その点は、大気汚染があまりないこちらの世界のいいところだ。
リャクークと、馬車をひくトゥアフェーノ達が、砂にはらばいになって、楽しそうにお喋りしている。小鳥かやもりのような声だ。内容はわからない。もともとわからないので、スキルのロックとは関係ない。
リャクーク達の様子を見ながら、俺は毛皮のローブを羽織り、掻きあわせた。少しでも幕屋から離れたほうがいいと判断し、いつの間にやらできていた砂山をのぼっていく。途中、休憩しながら、五分くらいで一番上まで辿りついた。その間も砂は風に動き、絶えず形をかえている。
座った。収納空間の口を開ける。少し、寒い。
ロック解除の手順は簡単だった。「井の水を飲む」。それだけだ。
それもまた、天罰の証のように思える。井と云えば、神さまに関係のあるところだ。そこのお水を飲むことが解除条件だなんて、天罰っぽいじゃないか。
ずっと前、ダストくんとハーバラムさんと一緒に、無人の井へ行ったことがある。そこで、お水を汲んだ。それに、市場で売られている神おろしが汲んだ井のお水を、興味本位で買ったこともある。単なるお水だし、幾らかはつかっちゃったけど、少しは残っている筈だ。
井のお水はちゃんと持っていた。それをとりだしたいと思ったら出てきたのだから、そうだ。収納空間はこういう時、間違ったものを寄越さない。ちょっとほっとする。記憶違いでなかったらどうしようと、不安もあったのだ。
華奢ながらす壜にはいったそれは、ごく普通のお水に見える。ちょっと揺らしてみると、星明かりを反射して、綺麗だった。
栓をぬく。変な演出がありませんように、と祈りながら、壜を口へ持っていく。
どんと背後からなにかがぶつかってきた。「あ」
俺の手から壜がするりとぬけた。
「あー!」
壜は砂の上へ落下し、そのまま滑りおちていく。マオ、と声が間近でする。俺は慌てて立ち上がり、落ちていく壜を追った。あしがもつれて転び、一回転して起き上がる。
ずるずると滑る砂と一緒に、壜に追いついた。必死にキャッチし、停まる。座りこんで、息を整える。
ひとあし遅かったようだ。壜の中身はこぼれ、いやがらせのように砂がはいっていた。
俺はしばらく呆然としていたが、砂をなにかが滑ってくる音で我に返った。
ロック解除を邪魔したなんてひとかけらも考えていないんだろう。ヨヨが心配そうに立っていて、左右に首を傾げた。




