3724
時折リッターくんが口をはさむのだけれど、リッターくんも声自体はかわらないが、喋りかたの印象は全然違った。
少し低い声から、高めの声まで、こちらの言葉は実際には凄く抑揚がつく。俺の耳に聴こえていた日本語とは、まったくの別物だ。本当に、歌と云われたら信じる。それくらいに音に起伏がある。
いつも淡々と、どちらかというと平板な調子で喋るのがリッターくんのイメージだ。今だって、表情なんかはやっぱりあんまりないし、語気が強いという訳ではない。でも、歌うみたいに上下する調子の喋りかたはなんだか、リッターくんらしくないような、そんな変な感じがしてしまう。
きっとこの子はずっとこの喋りかたで、俺の言語スキルがロックされたから結果としてそれが聴こえるようになったにすぎないのだろう。けれど、なんだか、変なことのように感じる。慣れなんだろうな。
ユラちゃんは段々と、口を噤むことが増えていった。目がかすかに潤んでいる。俺が突然、なにを云っても苦笑いで流すようになってしまったのだ。彼女はそれを、どう考えているだろう。
みんなが眠ってからならなんとかできると思うから、明日には誤解を解きたい。あちらの世界のことを説明し、あちらとこちらの言葉がまったく違うことを説明し、言語がわかる特殊能力がつかえない状態だったと説明し……大仕事だな。
ユラちゃんが完全に黙り込んだので、俺はどうしようもなく、彼女の腕を軽く叩いた。ユラちゃんははっとして俺を見るが、俺が喋ろうとしないからだろう、顔をしかめ、ぱっと立ち上がる。そのまま、滑るように砂を降りていった。走って幕屋へ向かっている。悪いことをしてしまったかもしれない。
リッターくんがなにか云うが、俺はまたしても答えられない。リッターくんを見るだけだ。
リッターくんもかすかにこちらへ顔を向け、俺を見ている。その状態で、お互い黙りこくっていた。もともと、リッターくんは口が重たいし、俺は今、こちらの言葉を喋れない。
ほーじ、とリッターくんが云ったのは聴こえた。ぼんやりしてしまっていた俺は、リッターくんの顔にしっかりと焦点を合わせる。リッターくんはたしかに、ほーじ、と云うのだけれど、それ以外の部分が聴きとれない。
リッターくんは、同じことを二回云ってくれた、みたい。俺がかんばしい反応を見せないからか、リッターくんは俺の肩を数回、優しく叩いて、立ち上がり、砂をおりていく。その前にも、ほーじ、と云っていたのだけれど、彼がなにを伝えたいのか、わからない。
それが凄くもどかしい。




