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ニニくん、と云おうと思ったが、俺は口を噤んだ。突然訳のわからない言語を喋ったら、ニニくんを不安にさせてしまう。それはよくない。あんまり、刺激してはいけない精神状態だ。口数も不自然に少ないし、今は安心させてあげるほうがいい。
ニニくんは俺の隣まで来ると、困惑したような顔でしばらく俺を見ていた。俺は微笑むが、ぎこちなかったと思う。こういう時に、身振り手振りまでかなり違うと、困る。親指を立てるのって、こっちだとどういう意味だっけ? ゼスチュアとかハンドサインとか、変なことしないように避けてきたから、わからない。指で首の辺りを触るような仕種をするのが、危険がある、みたいな意味だというのは知ってるけど……あと、土下座はシアイル人には通じるらしい、っていうのは。
ニニくんは、俺を見ていたが、怯えた顔をした。それから、ゆっくりと、まるで俺をおどかさないよう気を付けているみたいに、しゃがみ込む。そのまま座った。
ちょっと間がある。いつもならこういう時、俺はばかみたいにお菓子だのサンドウィッチだのをとりだして、食べる? とかなんとか云うのだ。でも今はそれができない。もどかしさを感じる。
ニニくんは膝の上に杖をのせ、俺の手に軽く手をのせる。収納空間からあたたかいお茶でもとりだそうかと思っていた俺は、それを辞めた。ニニくんがぶつぶつとなにか云っている。
それがなんなのか、すぐにわかる。俺の体とニニくんの体がかすかに光ったからだ。色合いからして、燕息だろう。
ニニくんは何度も、光が弱まる度に燕息をつかった。俺が体調を崩したかなにかで、一時的に喋れなくなっている、と思っているらしい。多分。本当のところはわからない。
言葉が通じていたって嘘を吐くひとは居るけれど、言葉が通じないと嘘もなにもない、というのがよくわかる。仕種や表情でなんとかなるという話も聴くけれど、生憎世界が違うと仕種はかなり違うし、今まで言葉が通じていた人間の表情をくわしく読もうとしてくれるひとは居まい。
俺だって、煩わしいと思っている。
ロック解除は簡単にできるのだけれど、解除の時にもしなにかあったら、と思うと、ニニくんの前ではできなかった。例えばだけど、体が不自然に光りかがやくとか、ロック解除しました、って声が聴こえてくるとか、ありえない話じゃないだろう。
よなか、みんなが眠った頃にやる。ひとりにして、と言葉で伝えられたらどれだけ楽か。
言葉をとりもどす為の言葉がない。




