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ユラちゃんはなかなか戻ってこない。ほーじくんも席を立ち、俺はタスとふたりになる。「ふたりっきりだね」
「語弊のあることを云うな」
ばっさり切られた。タスってほんとに、真面目で、かたくるしい。
「お前の世界のことだが」
「うん?」
「あれは異常だぞ」
タスを見る。相変わらず、顔の右半分は見えない。
「異常って?」
「色々あるが、まずは人間の多さだ。あれだけの人間が居たら、祇畏士も大勢居るだろうと思って、わたし達はそこから逃げた。ほーじから、魔法がないと聴いて、悔やんでいるところだ」
本当にその場で暴れればよかったと思っているのかいないのか、判断付かない。俺は黙っている。
タスが鼻を鳴らした。
「冗談だ。実を云うと、仲間がふたり、なにかで死んだ。それで、人間が少ないところまで逃げた」
タス、たまに冗談云うけど、ほんとか冗談かわかりにくい時が多い。俺はタスの肩を軽く叩く。
「なにかって?」
「わからん。魔法だと思っていた。落珞か、死活か、毒刺か……そんなところだろうと。だが、今朝ほーじから、あちらの人間は魔法をつかえないと聴いて、困惑しているところだ」
「どんなふうに亡くなったの」
「わたし達は、食糧を求めて、食糧がありそうな邸へ押し入ったのだ。どうしてもなにもなければ、そこに住んでいる人間でいいと思ってな」
タスは顎を撫でた。「奇妙な邸だった。出入り口は横に動くがらす戸で、人間達は触れもせずにそれを動かしていた。それも魔法だと思ったのだが、違うのだろう? なかは床も壁も天井も白く、天井には灯が埋め込まれたようになっていて、でこぼこした机のようなものが数台あった。その前に、人間が並んでいた。それから長椅子がずらりと……あれを考えると、廟のようでもあったな。長椅子には人間が座っていたが、犬や猫をつれた連中も居た。それから、出入り口から奥には、カウンタがあった。その向こうには人間が何人も居て、その上の天井からさがった板にはなにかの絵が描いてあった」
「タス、遮って悪いけど」俺は笑いごとでもないのに、半笑いになってしまった。「それ多分、銀行か、郵便局だね。職員さんのお弁当くらいしかご飯はないと思う。外には自販機があったかもだけど」
「ぎん……?」
「両替商みたいなとこだけど、お金しか扱わない。お金を預けたり、預けてるお金をひきだしたり、投資のこととか話すとこ」
タスはぽかんとした。衝撃の事実なのだが、どうやらタスは、あちらで銀行もしくは郵便局強盗をしたらしい。




