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「さて」
俺は足枷の残骸を床へぶつけ、からからと音を立てた。ふたりがびくびくと震えている。魔王の面目躍如かな?
「ハツァル。お前の上司のことだ」
名前は、かみなりもふたごも云っていたやつ。もしほかに仲間が居て、そいつの名前だったらアウトだ。
当たっていたよう。セーフ。
されき改めハツァルは、情けなく声を震わせる。「は、はい、ごしゅじんさま」
「お前の主人になった覚えはない」
「すみません!」
「まあ、見逃してあげる。ウロアのことを教えなさい。裁定者なんでしょ? 日に何回質問できるの」
ハツァルは口をぱくぱくさせる。俺は床を叩いた。「思い出せないの? 急いだほうがいいよ」
「じっ、十回です!」
「はあ? 多すぎない? 本当なの?」
「のののの、能力証を見ましたっ、質問回数は日に十回までと書いてましたっ!!」
まじか。チートじゃんよ。
俺は思わず舌を打つ。
「あいつが毎日質問してることは?そんだけ回数があるなら、無駄かもしれなくてもしてることがあるんじゃないの。云いなさい」
「あ、あり、ああああります、毎朝、今日は厄介ごとにまきこまれないか、それから食事の度に毒がはいっていないか、毎晩賭場でいかさまをしているやつが居ないか質問します!」
朝一回、食事×3だから三回、賭場で一回。てことは実質五回。
五回ならごまかせるかも。
俺はにっこりする。これだけ聴きだせればいいが、カムフラージュしないといけない。
「そう、いい子ちゃんだね。あいつが今狙ってるのは?」
「し、四月の雨亭のけものまがい……そそそそそいつのいろを巧いこと借金まみれにしろって!」
「あらあら、豪儀なこと」
やさしくふふふと笑ってやった。よし、もう狙われてる。「命令に従わずに、あのお嬢ちゃんと宜しくやろうとしてた訳? とんだ腹心だね」
「あの宿はもう潰れたみたいなもんなんです」
ハツァルは何故か俺にいいわけした。哀れなものである。
「じゃあ、あいつの弱点は? 大切にしてるものはなに」
「じゃ、じゃくてん? あの、えっと、け、けものまがいの連中です、邸の奥に大勢、毎晩とっかえひっかえして」
「ああそう、奥ってどこ?」
「地下です!」
いい加減吐きそうなんだけど?
足枷をつかって、ハツァルの顎を持ち上げる。「それじゃあ、あいつの邸、どこにあれがあるか云いなさい」
「あ、あれって……」
「知らないとでも云うつもり? 腹心のお前が知らない訳ないだろう!」
怒鳴りつける。知らないっつーか、口から出まかせなんで、こいつパニックだろうな。かわいそ。
ハツァルはひーひーと苦しそうに呼吸する。「し、し、しりません、金の類は全部蔵に、ああ!」
「思い出したの?」
「ちょ、ちょ、帳簿なら、図書室の隠し扉の奥に」
「そんなつまらないものじゃない! ばかにして!」
「ごごごごごごごめんなさいいわかりません勘弁してくださいいいいい!!」
「強情だねえ、素直になるようにちょっと痛い思いしてもらおうかなあ」
禍殃をつかった。これも、思っただけでつかえるようだ。ハツァルがうっと呻いた。




