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手が震える。「マオ」
ほーじくんの声に、俺は手紙から顔を上げた。小さく数回、頷いて、手紙を収納する。ヨヨが懐から、もう数枚、便箋をとりだした。
今度は、怯えさせないように、ひったくったりはしなかった。うけとって、ヨヨにありがとうと云い、開く。そちらもやはり、妹の手で書かれたものらしい。文字は整っていて、内容はさっきの便箋の続きだ。
俺は黙って、それを読む。誰も、なにも、訊いてこない。俺の表情はどんなふうなんだろう。
妹からの手紙には、まったくあいつらしいというか、無茶をした顛末が書かれていた。
まず、俺が「行方不明」になったことについて。
妹は、レットゥーフェルという名前は勿論知らないが、襲撃してきたのが「ほーじくんの」世界の魔物であることは理解していた。俺が率先して戦っていたから、わかったんだろう。
そうそう。さっき考えていたことだけど、レットゥーフェルは使役前から喋っていたが、それはこちらの世界の言葉だった。妹は、というかあの場に居たひと達は、俺とレットゥーフェル達の会話を理解していない。俺の言葉は本当に断片的には聴きとれたみたいだが、レットゥーフェルとか、冒瀆魔法の魔法名とか、その辺りは誰にも聴こえてなかったよう。
当然だけど、レットゥーフェルはこちらの魔物だから、喋れるとしてもこちらの言葉である。魔法名なんかも、こちらの言葉が俺には翻訳されて聴こえている訳で、言語:異世界を持っていないひと達にはよくわからないものだったということだ。妹やおじさんには通じていたので、人数が多くなると翻訳機能がバグるのか、レットゥーフェルに通じるようにスキルが働いていてあちらの人間にはわからない部分が増えたのか、謎だ。
マルジャンとヤラについても、俺がなにか云っていたのは大勢が見ているが、それがどんな言葉だったのかはやはり断片的にしかわかっていない。一部の言葉はわかった、というのは、だから、翻訳機能が「俺の言葉をこちらの世界の言葉に翻訳する」という機能を持っているからで、俺は基本的にはもとの世界の言葉を喋っていて、それがスキルで語りかける相手の理解できる言葉へ変化しているのじゃないかな? 言語Aと言語Bを喋るひと達がどちらも大勢居ると、言語Aを喋りながら言語Bに翻訳してもらうというスキルが変に働く、というのは、考えられると思う。
まあ、よくわからんけど、ごく一部は聴きとれ、一部はわからない。ので、俺が妹がどうのこうのと云っていたことは、聴こえたひとが居るらしい。魔力、というのはわからなかったらしい。やっぱ、バグってたのかな、翻訳。




