ニーバグ ひとりぼっちの異世界大冒険
これはどうも。わたしをさがしてここまでいらしたと、娘から聴きましたが、先達の知恵を求めておいでかな。
――封印について知りたい?
これは、随分久し振りのお客さんだ。いえ、一時、わたしの記録を求めて、お客さんが沢山いらしたものでしてね。
わたしが知っていることなら、喜んでお話ししましょう。
これはヨヨという、あるちっぽけなニーバグの、とてもちいさな冒険の記録です。
ヨヨはなんの変哲もないニーバグでした。少々、ぼんやりしていて、並みのニーバグよりも人間に興味を持っていたくらいで、特殊能力に希有なものがあるとか、そんなことはありません。つかえる魔法もごく一般的で、要するに普通のニーバグだったのです。
あなたもごぞんじのように、ニーバグ社会というのは偉大な「王」を中心に形成されます。
王は常に、ニーバグ達に目を配り、健康であるか、怪我をしていないか、腹をすかしていないか、心を砕いてらっしゃる。ヨヨは王の優しさと英知にひどくあこがれていました。勿論、若いニーバグとして、これは異常なことではありません。
そんなヨヨは、ぼんやりしている為に、群れからはぐれることもよくありました。幾らかは、同胞たちの意地悪だったのかもしれませんが、大概はヨヨのぼんやりの所為でした。
特に、皆で金襴果を摘んでいる時など、同じ年頃の若者達がつまみぐいして叱られるのを尻目に、ヨヨは黙々と金襴果を摘み続け、川向こうに繁みを見付けるとそこへ行き、気付いたら群れが見えない、ということがよくあったのです。
ヨヨはよく云えば集中力があって真剣、悪く云えば周りが見えない性質でした。
ツィティジアーの長老達に初物の金襴果酒を届け、かわりに沢山のお菓子をもらう楽しい季節がすぎて、そろそろあたらしい金襴果酒を仕込もうという時期が来ました。
金襴果を摘むのだけは得意だったヨヨは張り切って、ツィティジアーの長老達に可愛がられてまだまだ遊び気分がぬけない若者達が、金襴果をつまみぐいしながらふざけあっているのもお構いなしに、ずんずん林の奥へと進んでいきます。
ヨヨは、王に認められたい気持ちが強かった。いや、それは悪いことではありません。王という素晴らしい人格者にあこがれ、近付きたいというのは、正常な心持ちでしょう。そう思いませんか、お客人?
――そうでしょう、そうでしょう。あなたも、人生の先輩を目標にしてきたのなら、わかりますね。
ニーバグ達は酒に弱く、仕込む前の金襴果をつまみぐいしても酔っ払います。
ヨヨは、あまりにも真剣すぎ、真面目がすぎて、面白くないやつだったんでしょう。仲間は、酔っていたのもあって、ヨヨに意地悪をすることにした。
責められることではありません。あちらにしてみれば、楽しい金襴果摘みに水をさされたような気分だったのでしょう。
ヨヨは例によって例のごとく、目に付いた金襴果をほとんど摘んで、持っていたかごにいれていきました。ひと株に幾らかは残すようにといいつけられていますから、とりつくすことはありません。それでも、ヨヨがかごをいっぱいにするのは、ほかの誰よりもはやかった。
仲間達はそれを考慮すべきでしたね。ヨヨにはほかに特技はなく、金襴果摘みだけがよりどころだったのですから。
いっぱいになったかごを持って戻り、あたらしいかごをもらってまた金襴果の繁みへ走っていくヨヨを、若者が呼びとめました。シシと云って、悪いやつではないのですが、必要以上にふざけるところのある若者です。
ヨヨははやく金襴果摘みに戻りたかったのですが、ヨヨにとっては、シシは一番の仲好しです。金襴果で酔っているシシを寝かせてやろうとしました。
ところがシシは云うのです。金襴果の繁み、それも凄くひろいのを見付けた、お前にその場所を教えてやる、と。
ヨヨは後から考えたものです。シシは楽しいやつだが、誰にも知られていない金襴果の繁みを見付けたら、きっと自分ひとりで食べ尽くしていただろうに、と。
しかしその時、ヨヨは功名心でいっぱいになっていますから、シシから聴いた場所へまっすぐに向かいました。群れで一番、金襴果を手にして、王に誉めてもらうんだという気持ちしかなかった。
開拓者はヨヨのさもしい心を見抜いて、あのような仕打ちをなさったのかもしれません。
シシから聴いたのは、普段群れがいる場所から小川をはさみ、少し行ったところでした。ヨヨはみずびたしになりながら小川を越え、森へ駈け込みます。酔ったシシでは小川を越えられないというのは、頭からぬけおちていました。
シシは嘘を吐いたのです。ヨヨをからかい、毎年沢山の金襴果を摘んでくるヨヨが、その日はかごいっぱいで終わるように。
ですが、嘘は吐こうとして吐けるものではないとはよく云ったもので、シシが云ったのの少し手前に、実際に金襴果の繁みはありました。それも、シシの云うように、見たこともないようなひろさです。
おそらく、群れの大人達は、その場所を把握していたのだろうと思います。何故なら、金襴果摘みをする若者達は、大概がちょこちょことつまみぐいをして、あしどりがおぼつかなくなる。小川を越えることはできなくなります。若者達の命をまもる為に、川を越えた先には金襴果を摘みに行かないのです。
ヨヨはそんなことを考えず、踊りながら金襴果を摘みました。あっという間にかごがいっぱいになります。魔力を消費する為、金襴果摘みではつかわない収納空間をつかおうか、それとも走って戻ろうか、シシに分けてあげよう、シシは毎回金襴果を少ししか摘めなくてからかわれているから、まわりを見返してやれる……そんなことを考えている瞬間でした。
金襴果をかきわけるようにして、白い衣装を身にまとった、背の高い人間が出てきたのです。
ヨヨは驚きましたが、人間とニーバグは友好的な関係を築いているもの。お菓子を持っていなかったので、摘んだばかりの金襴果をご馳走しようと、ヨヨは金襴果が山とはいったかごを、その人間へさしだしました。それにヨヨは、ニーバグのなかでも特に人間が好きですから。
人間はヨヨの頭に手を置きました。ヨヨはてっきり、頭を撫でてくれるのだと思いました。だから逃げようなんて、考えもしません。
人間は、ありがとうとも、可愛いねとも云いませんでした。封印と云ったのです。
ヨヨは林のなかに倒れていました。
金襴果の繁みも、金襴果が詰まったかごもありません。
呼吸をする度にどこかが痛いような、気持ちが悪いような感じがします。
木々はいつもの森や林のものではありません。
ヨヨは泣きながら、群れを求めて走りだしました。
あの人間は何者だったのか?
何故、ニーバグの群れが普段居るような、森の奥まで来たのか?
封印とは、あの「封印」だろうか?
ヨヨは足の痛みに立ち停まり、すぐ傍の木のうろへもぐりこみました。そこには小さなねずみが居ましたが、ヨヨを見ると驚いて逃げていきました。話しかけたけれど、答えてくれません。
ヨヨはうろのなかで体をまるめ、泣きながら眠ってしまいました。
夜が来ました。
ヨヨはいきものの気配に目を覚まし、体を起こしました。おなかがすいて、咽が渇いて、目の前がちかちかします。
ゆっくりとうろから這いずって出ると、夜空が見えました。ヨヨはめそめそと泣き、川や泉をさがします。その近くになら、くだものもあるかもしれない。人間が住んでいて、助けてくれるかもしれない。
そんな淡い期待は、すぐに打ち砕かれました。見付けた小川はとても綺麗でしたが、かわった匂いがするのです。それでも、咽が渇いて、気持ちが安定しない為に魔法をつかえないヨヨは、腹ばいになって小川に口をつけました。
水を飲んで、体を起こすと、息が切れます。遊びまわって水を一気に飲んだ時と似ていますが、それとは違うものでした。
ヨヨは本能的に、この水は飲んではいけないものだと悟りました。
唸るようなおそろしい声に、ヨヨは近くの木に登って息をひそめました。震えていると、星明かりに照らされて、犬が走ってきます。
犬!
ヨヨは尚更震えました。その犬は、黒い毛並みで、ヨヨほどもある大きさだったのです。
犬は、首に紐をつながれていました。奇妙な格好をした人間が、その紐を握っています。人間が大きな犬を飼っているのを見たのは、ヨヨははじめてでしたが、人間なら助けてくれるだろうとほっとして、枝から飛び降りました。
なにか食べさせて、群れの場所がわからなくなった、と、そんなことを云いながらヨヨが駈け寄っていくと、人間はなにか叫びました。それを合図にして、犬が飛びかかってきます。
ヨヨは間一髪で、犬の牙から逃れ、踵を返して逃げました。もう走れないところまで走り、繁みのなかで震えました。泣きました。人間から攻撃されたのははじめてだったのです。
ヨヨはまた、少し、眠りました。
翌日になると、ヨヨの空腹は限界を迎えていました。
金襴果摘みの日に群れからはぐれてしまったのが致命的でした。ごぞんじの通り、あの日はなにも食べないで作業するものですからね。でないと、酒の仕込みに悪影響が……おっと、話が逸れました。
ヨヨは丸一日以上なにも食べていない状態です。水は飲みましたが、それ以来、体がどんより重い。いえ、呼吸するだけでも体の感覚が希薄になっていくような感じでした。
ヨヨはそれでも意識を保ち、食糧をさがしに歩きました。
歩きながらヨヨは、封印について考えました。それは伝説的なことで、ヨヨはくわしく知りません。ただ、封印されたらこわいところへ行く、としか。
ヨヨは泣いていました。封印されたかどうかはわからないが、知らない場所で、こわい人間に攻撃されたのです。はやく群れへ戻りたいと考え、ぬけがけして金襴果を摘んだ天罰かもしれないと思いました。
ヨヨは森の端まで、とぼとぼと歩きました。途中、くだものはありましたが、食べてもあまり味がせず、そこにとどまっていると猫が来たので、こわくなって逃げました。
森の外には、大きな建物がありました。
甘い匂いが漂ってきます。
ヨヨはこっそりと、日陰を歩いていきます。
灰色の石畳が敷かれた道があり、花を植えた鉢が飾られた建物がその両脇に並んでいます。ヨヨは人間の暮らしているところを見たことがないので、大きな建物や、立派な石畳などに、驚きました。
朝はやくだったからでしょう。人間は少ししか居ません。手に手に紙束や、つやのある小さな板きれを持って歩いています。頭から紐をたらして走っているひとも居ました。その全員が、見たこともない奇妙な格好です。
ついっと、白黒斑のからすが降りてきて、ヨヨの頭にとまり、くちばしでつつきはじめました。ヨヨは追い払おうとしましたが、からすはヨヨの体に付いた虫を食べたいようで、そこに居座りました。
ヨヨは建物の陰で座り込み、これからどうしようか考え、考えているうちに眠ってしまいます。
ヨヨは、収納空間しか特殊能力を持ちません。伝糸があれば、と幾度か考えましたが、考えたからつかえるようになるというものでもありません。
目を覚ますと、からすは居なくなっていました。近くに粗相の後が残っていて、ヨヨはちょっと笑いました。ニーバグは楽しいことをさがす能力に長けていますから。
眠っても眠っても、体はだるく、眠たい。
ヨヨはけれど、なんとか食べものを手にいれようと、重い体をひきずるようにして動きます。
随分眠っていました。太陽が傾きはじめています。
相変わらず、甘い匂いがして、ヨヨはふらふらとそちらへ向かいました。お砂糖とミルク、バター、小麦粉……ニーバグの大好物、お菓子の匂いです。これにつられないニーバグは居ないでしょう。
ヨヨは物陰から出ました。石畳の通りには誰もおらず、ヨヨは静かに、いい香りのする方向へ行きます。
人間は、銀とひきかえにものを手にいれる。そういう知識は、ヨヨにもあります。
ヨヨはなにも持っていなかったけれど、耳飾りや首飾りを幾らかつけていました。ほかの若いニーバグ達が武器をほしがるところ、ヨヨがほしいのは盾と飾りだったのです。
ですが、銀なんて高価なものは持っていません。ヨヨが身につけていたのはほとんどがダイアモンドかサファイア、アレキサンドライト、オパールなどの、人間がうっかり落としても拾いに戻ろうとはしないものばかりだったのです。
ヨヨはけれど、ダイアモンドの首飾りを外しました。優しい人間なら、これでなにかをくれるかもしれない。そういう甘い考えがあったのです。
白い布がかかった机に、沢山のお菓子やパンが並んでいます。
机の向こうには、かわった飾りを顔につけた、髪の短い、人間の老婆が居ました。黒くて袖の短いチュニックを着て、ずぼんをはいた脚を組んで座っています。膝の上にはやわらかい本がひろげられていました。
ヨヨはそちらへ向かいます。ダイアモンドを机の端に置きました。なにか云おうと口を開いた瞬間、右手のほうからおそろしい音をたててなにかが向かってきました。
それは、クロイダイドに似た顔のなにかでした。きらきらぴかぴかした体で、せなかに人間の子どもをのせています。子ども達はかぶとを被り、魔物にまたがって、勇ましくヨヨへ向かってきたのです!
ヨヨは仰天し、悲鳴をあげました。子ども達がなにか喚き、それに呼応するように、魔物達がやかましく騒ぎます。小鳥達の警戒音のような声でした。
老婆が立ち上がって、ヨヨのように悲鳴をあげました。ヨヨは恐慌を来し、目についたお菓子やパンを収納空間に詰め込んで、走りました。とにかく魔物から身を隠そうと、建物へ這入ろうとしたのですが、見えないなにかにぶつかってけたたましい音がし、こわくなって反対方向へ走りました。
盗みをしてしまったこと、なにかを壊してしまったらしいこと、見たこともない魔物……。
ヨヨの精神状態は、限界でした。ヨヨは森のなかへ戻り、泣きながらお菓子を食べました。甘くてとてもおいしいのですが、食べていると咽が痛いような気がしてきて、それが段々と体中にひろがっていきます。見たこともない鮮やかなくだものを食べるとそれがひどいと気付いて、ヨヨはくだもののところを全部とって、捨てました。
朝のからすが、仲間と一緒にやって来て、ヨヨがばらまいたくだものをつつきまわします。からすはそれを食べてもなんともないようでした。
その晩はからすと一緒でした。二頭はどうやら、つがいのようでした。
ヨヨは翌日、パンを食べ、魔法の水で咽を潤しました。魔法の水ならのんでも気持ち悪くありません。
ヨヨはとにかく、群れへ戻りたかったのです。それで、体は重たいし、頭はかすみがかかったみたいになっているけれど、群れをさがしに出ました。きっと、群れのみんなも自分をさがしてくれていると思いながら。
ヨヨはお午まで、森を歩きまわりました。うさぎやねずみ、りすは見かけますが、奇妙なことに魔物は居ません。エラフィーブやルウォーマなら居てくれそうなのに、そういう者も見付けられませんでした。アーニズや、ライクルスもです。
アーニズやライクルスなら、困った時でも助けてくれるのに。それに、ニーバグのほかの群れも居ないなんて、おかしい。
ヨヨは段々と、不安が増していきました。魔物がひとつも居ないなんて、こんなおかしなことがあるでしょうか?
そして、前の日に子ども達が魔物にまたがっていたことを思い出しました。もしかしたら、まちには魔物が居るのかもしれない。そう思って、ヨヨはもう一度、石畳の綺麗なまちへ向かいました。
結局、ヨヨは同族も、それ以外の魔物も、知っているものは見付けられませんでした。
まちには人間が増えていて、昨日老婆がお菓子を売っていたお店はなくなっています。こわいのでヨヨは、建物の陰から陰へうつり、観察するだけでした。それでも、魔物は見当たりません。
ただ、見たことのない魔物なら、少しは見付けました。子ども達がまたがっていた魔物の大型版のような、様々な色の、低い唸り声をあげる魔物。同じように唸っている、体のなかに人間をのみこんで走りまわる魔物。そのどれも、目をらんらんと光らせ、大変におそろしげな見た目です。
その魔物達はあふれる魔を持て余しているのか、体から魔を漂わせていました。それも、黒いような灰色のような、奇妙な魔です。ヨヨはだから、こわくてその者達には近寄れませんでした。大きな者は人間に体当たりして、怪我をさせていましたし、とにかくこわかったのです。
ヨヨは森へ戻りました。なついてきたからすにパンを分けてあげていると、笛の音がします。
森のなかで楽器を演奏しているのなら、仲間かもしれない。
ヨヨは大喜びで、そちらへ走りました。息を切らして辿りつくと、自分と同じくらいの背の高さで、痩せたニーバグが居ます。きっと自分のように、仲間とはぐれ、食べものがなくてやつれてしまったのだ。そう思って、ヨヨは収納空間からお菓子をとりだし、その子へさしだしました。
悲鳴とともに、ヨヨの体が宙を舞い、地面へ叩きつけられました。
起き上がったヨヨは、自分がお菓子をあげようとしていたのが人間の子どもであること、よく似た人間の大人がその子を抱えてなにか叫んでいることを認識しました。
ヨヨは泣きながら逃げました。
森がおかしいのだと思っていましたが、どこへ行ってもなにかがおかしいのはかわりません。
ヨヨは少しのパンとお菓子で、なんとか命をつなぎました。眠っても眠っても眠たいのは相変わらずで、体はどんどん重くなります。おなかが痛くて、二回、下してしまいました。
おそろしい唸り声を上げる魔物は、まちに近付く度に、増えているように思えました。
その者達の傍に居ると、それだけで気分が悪くなり、ひどいと吐いてしまいます。それに、幻覚というのか、ありもしないものが見えたり、あるものがまったく別のものに見えたり、そういうことが起こりました。
ヨヨは疲れていました。
なかよくなったからすにねずみをご馳走になりました。ヨヨは吐いてしまい、しばらく眠りました。
からす達がヨヨをつついています。また虫を食べているのかと思ったら、痛いくらいにつつかれるので、ヨヨは渋々起きました。まだおなかが痛いけれど、からすが怒ったように鳴いて、二頭ともある方向を示すので、ヨヨは仕方なく、そちらへ行きます。
木に登ったからすを追いかけ、枝にちょこんと座ると、おいしいクリームのような色をした衣装の人間達が沢山やって来るのが、眼下に見えました。
ヨヨは息を殺します。
人間達は、おんなじ水色のブーツをはいて、似た色の手袋をしていました。顔は布で覆っています。目のところは、がらすみたいにぴかぴかしています。せなかに銀色の鞄のようなものを背負っていたり、銀の板を持った人間も居ました。
人間達はなにか喋っていますが、ヨヨにはなにもわかりません。
からすがヨヨをつつき、見詰めてきます。ヨヨは木の幹にしがみついて、じっとしていました。しばらくすると、人間は居なくなりました。ひとりも。
それから度々、お揃いの格好の人間達、それに、武器のようなものを持った人間達を見かけるようになりました。
お揃いの格好の人間達は、なにかをさがしています。大きな布袋を持っていて、それに見付けたものをいれるつもりのようでした。
それから、その人間達は、唸りを上げる魔物のなかでも特に大きくて白いものに運ばれてきて、そいつを駆使しているようです。その魔物は、けれど、魔をまき散らさないので、ヨヨはそいつの傍に居てもひどい気分にはなりませんでした。
武器を持った人間達は、おそらくヨヨを討伐に来たのでしょう。ばかにするようにダイアモンドを置いて、パンとお菓子を持っていた泥棒です。警邏隊が捕まえに来ます。傭兵達に、老婆が依頼したのかもしれません。
武器は、ヨヨの見たことがないものです。長い棒の先にふわふわしたものがついた杖や、大きくて白い布を張った太鼓のようなもの、肩に担ぐ重そうな黒い塊、などなど。それに、その人間達は小さな板きれを持って、大切そうに扱っていました。傭兵許可証かもしれない、とヨヨはどきどきしていました。
その人間達も、唸る魔物に運ばれてきていました。お揃いの格好の人間達と違って、唸る魔物はすぐに居なくなることが多く、どうやら捕まえて一時的に駆使していただけのようです。
そういう人間達があらわれると、からすが教えてくれます。ヨヨは木に登ったり、繁みでうずくまったりして、身を隠しました。それがうまくいかないと、ヨヨに気付いて追いかけてきましたが、からす達が邪魔してくれてなんとか逃げられました。
食糧が尽き、ヨヨは魔法の水だけでふつか、我慢しました。
もうどうしようもない。
おなかがすいた。
シシに金襴果を分けてあげたかったのに。
咽が渇いた。
みんなさがしてくれていないんだろうか。
もうろうとした頭で、ヨヨはそんなことを考えていました。シシに、金襴果酒を一杯盗んで一緒に呑んでみよう、と持ちかけられた時に、ためしてみるんだった。そんなくだらない後悔がよぎりました。
ヨヨは倒れました。
やわらかくてあたたかい手がヨヨを撫でています。平坦だけれど、優しい調子の声がします。
冷たい水が口にはいってきて、ヨヨはそれを飲みました。気分が少し悪くなったけれど、咽が渇いて死ぬよりはましです。
ヨヨが目を開けると、人間が沢山居ました。
ああ、喋りすぎました。少し休んでも?
すみませんね。メメ、お茶を。お客人の分もだよ。
――ああ、娘ですよ。養女ですがね。わたしの妹の子なんです。
ところでお客人、今夜泊まるところは決まっているんですか?
決まっていない。
なら、あき部屋がありますから、うちへどうぞ。遠慮なさらず。気にする家族ではありませんから。
今日はもう、続きを喋れそうにありません。明日またご足労戴くよりも、ここに居てくだすったほうが、わたしも気が楽です。
――ええ。そのように。
――あ、お帰り。今、お客さんが来ていて、懐かしい話をしていたんだよ。今日はどうだった? あの子達、金襴果をつまみ食いするだろう? 君みたいに。ほら、笑ってごまかそうとしないで……ああメメ、ありがとう。
ああ、ツィティジアーの長老達から戴いたお菓子が余っていただろう。あれをお出しして。わたし達もお相伴にあずかろう。メメも食べなさい。いいね?
お客人、うちのひとを紹介しますよ。若い頃は金襴果で呑んだくれていたくせに、今は立派に指導なんかしてるんです。このひとはね、シシって云うんですよ。――わたしの名前? そんなことはどうでもいいでしょう……。
以下活動報告より一部転載です。
「卿」も、位持ち当人への「卿」とその跡取りへの「卿」は、あっちの言葉では多分、「別だけどかなり似通った言葉」なんだろうと。でないと、「ロヴィオダーリ卿とロヴィオダーリ卿が~」とかややこしくて仕方ない。
でも一般市民は聴きなれてないので、若いほうとか父親のほうとか注釈付けます。ツィークくんみたいに。
その辺は言語スキルの限界です。
その上で使用方法としては
位持ちorその跡取り 「家名+卿」
位を持っているひとの跡取りでない男児 「名前+卿」
功績がある人物、もしくは祇畏士などの尊敬される職業 「名前+卿」
です。
跡取りのミューくんとリッターくんは「ファバーシウス卿」「ロヴィオダーリ卿」ですが、チェスくんは「チェセールさま」とか「チェセール卿」、ツィ―さまも「ヘアツォークさま」「ヘアツォーク卿」になる訳です。ツィーさまアーデルさまに関しては、けもみみと障碍者ということで差別されているので、卿はどうしてもつかないのかもしれませんが。
ほーじくんは祇畏士協会に所属していますし行を続けてきた功績もあり、今や封印をつかえる祇畏士さまです。なので「フォージ卿」、もしかしたら「ティヴァイン卿」かもですね。
同じ家名で位を持った人間が複数出た場合は、「大」「小」で区別をつける、どちらも名前で呼ぶ、偉いひとがあたらしい呼び名をくれるなどなどあります。
サキくんは貴族ですが当人が跡をとりたくない気持ちが強く、その出で立ちから家族にも冷遇されているので、基本は名前で呼ぶことを求めています。なので奉公人は「サキさま」呼びです。
女性に関しては未婚ならば「家名+嬢」、既婚であれば「夫の家名+夫人」が改まった呼びかけかたであり、名前で呼び合うのは親しい人物か階級の低いひと達という考えがあります。
なので親しくない女性に対してはそういった呼びかたをするのが上流階級では当たり前です(誤解を避ける為)。
これはあちらの世界の女性は「父親もしくは夫あるいは家の付属物」という考えが根強く、地位が低い期間が長かったからです。
今でもディファーズでは、未婚の女性だとお葬式をださないこともあります。既婚であっても、夫の意向で出さないことは可能ですし、還元さえしなくても場合によっては罪に問われません。
名字の概念がない地域・トライブになると、名前で呼び合う、もしくは「仲間」「友人」のような呼びかけをします。サキが修行に行ったキャズドレッシュではその傾向が強く、外から来る友好的なひと達は一律に「友人」と括ってはじめは名前も呼びませんし、呼びにくい名前なら勝手に名前を付けます。
名前は「呼びかけの為の記号」であって、個人識別は別の部分で行っているので、名前がかわっても彼らは困らない訳です。ですが、その「もの」の名前は固定です(「木」とか「川」とか「魚」とか)。
まだ疑問ありましたらどうぞ(*- -)(*_ _)




