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やもりの鳴き声みたいな声を出し、それは俺の脚にぶつかった。え、なに?
脚の付け根辺りに、短い毛の生えた頭がある。それは、たんぽぽの綿毛のような質感で、茶色っぽい。丸みがあって、耳があって、豚のような鼻で……。
「ニーバグ」
俺の脚には、涙ぐんだニーバグがしがみついていた。
ニーバグを安心させるには、お菓子が一番だ。シナモンのクッキーと生姜のクッキーを渡すと、ニーバグはちょこんと座ってそれをかじる。「どうしたの、この子。ニーバグって、荒れ地には居ないんだよね?」
「ああ……」
返事をしたのはリッターくんだけで、それも彼らしくなく、歯切れが悪い。
リッターくんはユラちゃんを見た。「ちょっと、わたしを見ないでよ。声がして起きたら、あんたとほーじでニーバグを宥めてるから、驚いたのよ。事情がわかってないのはわたしも一緒なんだからね」
ユラちゃんはそう迷惑そうに云った。成程、ユラちゃんも知らない、と。
俺はほーじくんを見る。彼は困った顔で、ちらっちらっと、ニーバグを見たり、俺を見たりした。
「ほーじくん?」
促すと、ほーじくんは肩をすくめるみたいにする。
「あの……」十秒くらい、間がある。「出てきた」
「でてきた」
「うん」ほーじくんはこっくり頷く。「さっき、あの。ぼく、目が覚めて、お手洗い……それから、チャタラ達に頼んで、おみず、もらおうと思って。咽が渇いてたし。そしたら、いきなり出てきた」
ほーじくんは戸惑い顔でそう説明し、また、肩をすくめるみたいにする。うむ。
俺は左手を軽く挙げる。「もしかして、ほーじくんが封印したニーバグじゃない?」
「え……あ」
ほーじくんは、クッキーをさくさく食べているニーバグを見た。じっと見詰める。「あ」
ユラちゃんが云い、俺は彼女と目を合わせる。
「あの、あれ? 封印が解けると、封印をつかった祇畏士の傍に、魔物が出てくるっていう」
「だと思う。俺も、ほーじくんの傍に戻ったから」
「ちょっと待って、それじゃあこいつ、ニーバグを封印したってこと?」
ユラちゃんが呆れ顔でほーじくんを指さす。俺は苦笑で頷いた。ユラちゃんはますます、呆れたようだ。
「ほーじあんた、ニーバグなんて封印してたの? どうしてよ? あんなのあんたなら、片手で倒せるでしょうに」
ユラちゃんの疑問はもっともだ。普通、ニーバグなんて封印しない。
だが、ほーじくんはニーバグの傍まで行って、しげしげと観察中だ。ユラちゃんの質問に答える余裕はないらしい。




