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「あ」ほーじくんの顔色がかわった。「あの、ね、あの。マオのこと、悪いとかじゃ、ない。マオが魔につかれてるのは、マオの所為じゃないから」
「わかってるよ」
慌てた口調の弁明は可愛くて、俺は小さく笑う。ほーじくんはちょっとしおたれて見えた。
ほーじくんの頬を、右手で包むみたいにする。
「ごめんって、謝らないといけないの、俺だから」
「え?」
「封印されてた時の話、まだしてなかったよね」
ほーじくんの表情がみるみる、曇る。
ほーじくんはその話を聴きたくないみたいだったけれど、ほーじくんの気持ちをやわらげる為には必要なことだ。俺は唇をしめらす。
「結論から云うけど、俺は平気だった。ていうか、もとの世界に戻ってたんだ、俺」
ほーじくんは小さく息をのみ、それからちょっと喘いで、え、と云った。
俺は苦笑する。
「ごめん、云わなくて。ほーじくん、封印の話、いやみたいだったから、俺、話す勇気なくて。臆病なんだ」
「……もとの世界って、どういうこと?」
「そのままだよ。もとの世界に居た。俺が生まれ育った世界に。だから、しばらくぶりに家族に会えたし、言葉が通じないとかもないし、あっちにしかないもの食べたりしてた。いろいろ買ったし」
ほーじくんは口を開け、閉じ、また開ける。
「それじゃあ」
ぴたっと、不自然に声が途切れた。ほーじくんの表情が、あっという間に恐怖に染まる。それはまるで、知らないうちに誰かに怪我をさせていたと気付いたみたいな顔だった。
「ぼく、魔法がない世界に、ホートリットやレットゥーフェルをおくってたの?」
ほーじくんは相当大きなショックをうけてしまったみたいで、あおくなって黙り込んでいる。目には涙がたまり、たまにそれがこぼれた。
「ほーじくん、大丈夫だから」
俺は、自分が云わなくてもいいことをいったことがわかって、焦っている。優しいほーじくんが、ショックをうけない筈がないのに。
「あのね。俺がもと居た世界は、魔物達にはつらい環境だったんだ。タスに訊いてもらえばわかるから、訊いてみて。魔物達は、ずっと毒状態で、かなり弱ってた。それに、あっちには魔法はないけど、いろいろ武器って云うか、兵器がある。対応できる。建材も、凄く丈夫だから、魔物が簡単に壊せるものじゃないし」
「魔物が居ない、魔法のない世界に、ぼく、魔物をいっぱい送ったんだ」
ほーじくんはささやく。「魔物が居ないなら、当然みんな、戦ったこともない。突然襲われたひと達は、死んじゃったかもしれない」




