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ほーじくんはまだ、うまく想像できないみたいだが、頷いてくれた。
「あの……マオの世界、大変なところ、だね。こわいこととか、あぶないこととか、沢山あったでしょう?」
ほーじくんらしいというか、こちらのひとらしい感想である。俺は小さく頭を振る。砂が動く。
「そうでも。神さまは身近じゃないけど、その分決まりがしっかりしてて、厳しいし、道具がいろいろあって便利だし……あ、そうだ、魔法もないよ」
「まほうも?」
今度こそ、ほーじくんは言葉を失った。
「ええっと。あと、職業もないな。お仕事はあるけど。あ、そっか、そうだよ。ごめん、先に云っとけばよかったんだけど、井もない。能力証も。水面に文字がうかびあがるなんてこと、ないから」
俺がそこまで云うと、ほーじくんは俺をぎゅっときつく抱きしめた。「ほーじくん、どうしたの」
「……そんなの、こわいとこだよ」
あー。こわがらせてしまった、みたいだ。
俺はほーじくんの頭を、ぺたぺた撫でる。ほーじくんは俺のせなかに爪をたてている。
「神さま、居ないっていうの、わかった。居るかもしれないけど、神さま、凄く厳しい。じゃなきゃ、人間に興味がないんだ」
「そうかな……あ、それとね、魔物も居ない」
ぱっとほーじくんがはなれた。きょとんとしている。俺は続ける。
「魔、っていうものが、そもそもない。少なくとも俺は見たことないし、そういうものがあるって話も聴いたことない。あと、還元もないよ」
「魔……ないんだ」
頷く。
ほーじくんは口を噤み、なにか考えているふうだ。邪魔をしたら悪いかなと思って、俺は黙る。ほーじくんの髪をそっと、指で梳く。
二分ぐらいして、ほーじくんはふーっと息を吐いた。「あのね、マオ。きっとね」
「……うん」
「きっと。マオの世界の、神さま達は、きっと、みんなで頑張って魔をなくして、それで疲れて、お休みしてるんじゃないかな。多分、そうだよ……」
ほーじくんはそんな、可愛らしいことを云う。神さまは居て当然、という世界で生まれ育ったのだから、そういう考えになるのはおかしなことではないのだろう。
ほーじくんは目を伏せる。
「厳しいとか、人間に興味がないなんて、云っちゃいけなかった。ぼく、失礼なこと、云っちゃったから、マオの世界の神さまに、ごめんなさいする」
「うん。怒らないと思うよ」
「そうかな……そうだね。魔をなくしてくれた、優しい神さま達、だもんね」
ほーじくんが優しいと思う。そういう発想をできる辺りが。




