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ほーじくんはカルチャーショックでか、声が震えている。
「でも、でも、わかる筈だよ。裁定者が、天罰ですかって訊けば、いいもの」
「裁定者は居ないんだ」
「居ない?」
ほーじくんは目を瞠り、それから顔をしかめる。「そんなの……あの、ね、マオを疑うのじゃないけど、でも、ごめんなさい。信じられない」
「うん」
それは、わかる。
俺だって、二年弱こちらの世界に居るから、裁定者がどうのこうのという場面には遭遇してきている。ていうか、裁定者をひとり荒れ地おくりにした。
その経験から云うと、裁定者というのはこちらの世界の習慣とか文化とか、生活そのものになくてはならない、のだ。
大きな犯罪が起こったら、誰が犯人か、裁定者があきらかにする。
それが普通で、あたりまえなのだ。そういう世界に育ってきて、「裁定者が居ない世のなか」を想像することは、相当難しいと思う。
なんだろう……例えばだけど、人間が言葉を持たない世界、というのを想像しにくいのに近いかなあ。うーん、それも違う気がする。
俺や俺のもと居た世界のひと達にとったら、こちらの世界の「特殊能力」「職業加護」は、要するに超能力である。それがあると云うことは信じられないが、「そういうものがあったらどうなるか」を想像するかは、そんなに苦労することじゃない。きっとここが簡単になるだろうとか、こういう犯罪ができてしまうんじゃないかとか、そういう想像だ。
でも、「そういったものがまったくない世界」をこちらのひとが想像するというのは、その反対なのだ。存在して普通のものがない、のである。簡単に想像できる訳がない。
それも例えば、車がないとか、PCがないとか、現代だって田舎だったらありうる、というか数十年前だったら不思議でもない情況、ということでもない。理解の範疇を超えている、と思う。
案の定で、ほーじくんは顔をしかめていた。
「マオを、疑ってはない。マオは、嘘は、吐かない」
「えーっと、魔法がつかえないって嘘、吐いてたよ」
「それは仕方ないこと」
ほーじくんは俺の嘘をひと言で片付け、への字口になった。「裁定者が居なかったら、どうするの? 悪いひと、逃げちゃったり、しないの」
「勿論、とりにがしちゃったり、間違ったひとを捕まえたりもあるけど。でも、裁定者が居ないかわりに、捜査の方法が色々あるんだ。みんな、いろんな工夫をして、裁定者が居なくてもなんとかなるようにしてるよ」
俺も、指紋採られたしな。ああやって地道に可能性をさぐっていくから時間がかかるけど、裁定者が居なくたってなんとかなってる。




