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ほーじくんは表情をひきしめると、もそもそっと喋る。「あの、神さまの存在が、はっきりしないって、どういうこと? マオ、今、いろんな神さまのこと、云ってた、……」
「ああうん。うーんとね。難しいな」
顔にかかった髪を払いのけた。こちらのように、天罰だとか、神さまと同じ名前の特殊能力だとかがある世界だと、神さまが居るかどうかはっきりしないという情況自体、意味がわからないだろう。というか、ほーじくんが今現在、俺の説明を理解してくれていない。
それは仕方ねえわなあ。だって、裁定者にはなんだってわかるし、開拓者は死んで時間を巻き戻すことができる。儀式の手順を間違ったりなにか不備があれば天罰をくらう。そういうのが当然の世のなかである。神さまは居ないと主張するほうが難しいし、神さまが居るか居ないかわからない世界なんて、想像もしないだろう。
俺は唸る。
「ええっとね。あ、山道掃除で天罰があったのは、知ってる?」
ほーじくんは小さく頷く。学生さん達にも伝わってたのか。
「砂嵐……でしょ」
「うん。それは、疎蕩者か、開拓者か、とにかくその天罰だよね」
ほーじくんはさっきよりも深めに頷いた。
「調べてみたら、じゅうたんの柄と、椅子に、不備があった。だから、神さまが怒ったんだって」
「当然だよ。山道掃除は、清らかなものだから」
そういえば、ほーじくんはディファーズ人であるだけでなく、神聖公を輩出したお家柄、その期待の祇畏士なのである。適職に祇畏士があることは小さな頃からわかっていただろうし、当然大事な宗教儀式は学んでいるだろう。釈迦に説法とはこのことである。
俺は苦笑で、続ける。
「そういうことが、俺が生まれた世界では、あんまり起こらないんだ」
「……どういうこと?」
やっぱり通じないな。わかっていたので、動じない。
「なかには、決まりを破ったら死んじゃうお祭りとか、ある言葉を口に出したら死んじゃう……」神社、は通じないだろうと思って、いいかえた。「廟とか、あるらしいけどね。それは、俺は直に知っている訳じゃないし、その話の真偽もわからない。それが本当に天罰かもわからないってこと」
「天罰なら、し……政府が、発表するよ」
また、苦笑いだ。
「そういうのはないっていう国で育ったんだ。呪いもなにも、全部ないっていうのが公式的な見解。だから、ひとを呪っても罪にならないし」
ほーじくんは口を開け、閉じ、どうやら言葉を失ってしまったらしい。




