3673
ほーじくんの目が潤んでいる。リッターくんはなにも云わない。
「ぼくは責任から逃れようとしてた。マオを好きでいつづけるなら、かならず向き合わないといけない責任から。公がそう云ってるからとか、みんなそう思ってるからとか、ととさまが教えてくれたとかあたりまえだとかそういうのは全部、自分が逃げる為の口実だった。だってどれもぼくの考えじゃない。ぼくは自分の頭で考えようとしなかった。判断を自分以外にしてもらってた。それが楽で、責任をとらなくていいから」
ほーじくんはそこまで一気に云って、数回、深呼吸する。俺はなにか云いたいのだが、云えない。
「ぼくはこしぬけだよ。リッターみたいに、気付いててもそんなの問題じゃないって云えるひとが、ほんとは、マオに相応しい」
え?
リッターくんを見る。気付いてても……って。
リッターくんはきょとんとしていた。会話の流れにそぐわない表情だ。それに気付いたのか、なにかいいかけていたほーじくんが口を噤む。俺は急き込んで云う。
「ちょっと、リッターくん、気付いてたってどういうこと?」
「どう……?」
リッターくんは眉を寄せる。「お前、グラーディアール邸で、魔法をつかったろう」
「え」
……あ。
あれ?
え、じゃあ、リッターくんあの時から、俺が悪しき魂かもって思ってたってこと?
いや、うん。魔法はつかっちゃったから、魔法をつかえることはばれたっていうのは、それはわかってたけど、でもそうじゃなくて、悪しき魂かもって考える? っていうのが疑問なんだけど。ああ、冒瀆魔法について知ってた、とかかな。
いやいやいやいや。リッターくん、相変わらず斜め上だな。悪しき魂だぜ。わかった瞬間警邏隊につきだすか、やわらかい対応であっても即刻関係を絶つ。悪しき魂が捕まった後に、関わってたってことでまとめて荒れ地おくりにされでもしたら、困るじゃん。この子、底知れねえな。
ぽかんと大口を開ける俺におかまいなしで、リッターくんはもそもそ喋る。
「フォージ・ティヴァイン。お前は……なにか、勘違いしていないか」
「え?」
「俺はマオを愛している」
はい?
びくっとしてしまった。今度はなに?
リッターくんは困った顔になっている。
「だがそれは、お前が思っているようなものでは……ない。まあ……その……兄達に対するような気持ちだ」
「あ……あに?」
ほーじくんがそう云って、口を半分開いた状態でかたまった。リッターくんはちょっと目を伏せて、肩をすくめる。本当に困っているような仕種だった。




