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ユラちゃんが必死な様子で云ったあと、また、しばらく沈黙があった。
ユラちゃんが洟をすする音が聴こえる。でも、リッターくんもほーじくんも俺も、手巾をさしだそうとはしない。泣かないで、とも云わない。
云えない、だ。
ユラちゃんは、顔を背け、力をいれて体の震えを我慢しているらしかった。その様子を見ていたら、泣いていることを指摘できない。彼女は泣きたくないみたいだから。
「あの」俺はどう切り出すかなやんだ揚句、そんなふうに間のぬけたことを云った。「ユラちゃん、ありがとう。たしかに、俺はほーじくんのこと、大切だよ。大切に思ってる。だから、もうばかなことしないでって、ちゃんと云った」
「あら、マオに叱られてたのね」
ユラちゃんは明るい声を出そうとしたみたいだが、声は震えていた。すんと洟をすすっている。
ユラちゃんらしくない……と云ったらいけないのだろうが、彼女は泣いたりしないイメージがあったので、動揺してしまう。
ほーじくんも戸惑っているらしいし、リッターくんはめずらしく、眉をぎゅっと寄せていた。みっともないとか泣きやめとか、簡単に云いそうなものだけれど、さすがのリッターくんも黙っている。
ユラちゃんがまた、無理な明るい声で云った。
「なんなの。それならわたし、怒ったの、損じゃない。マオに叱られるほうがいやでしょう、ほーじ。わたしやサキの気持ちは、あんたはどうでもいいみたいだから。マオが大切にしてたから、マオにあんなことしたあんたでも、わたしもサキもなにもしなかったのよ。あんたにすぐに仕返ししようとしたそこのばかとも、あんたとマオのことから目を背けたミューやジーナとも、自分の幻想を壊さないことに拘泥してるリオとも、違う」
ユラちゃんの言葉は辛辣で、口調は段々と、怒っているものになっていった。声が震えているのは、涙の所為か怒りの所為か、わからない。
「あんたとマオのことは受け容れた。それに、マオのことは、それなりに親しい友達だと思ってる。でもその上で、あんたを殺したってマオが喜ばないから、わたしもサキも我慢してたの。それに、わたしもサキも、あんたのこと、少しくらいは友達だって思って……」
そこまでだった。ユラちゃんはさっと、左手で目許を拭い、馬車へ走っていく。リャクークもまじえてお喋りしていたらしいトゥアフェーノ達がびくっとしたが、ユラちゃんはそれにかまわず馬車にのりこむ。
ばたんと大きな音をたてて、扉が閉まった。




