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ばかな考え?
リッターくんは反対方向に首を傾げる。ユラちゃんは怒りがおさまらないみたいで、リッターくんを右手でどんと突いた。
しかし、哀しいかなリッターくんの体力はユラちゃんの上である。攻撃をしかけたユラちゃんのほうがダメージをくらってしまったみたいで、痛そうに手を振った。手首、どうかしちゃったのかも。
「あのー」
おずおず、云う。
ユラちゃんが涙目でこちらを見た。「なによ、マオ」
「怪我のお薬、ないんだけど、あれだったらヤラ呼ぼうか」
「要らない」
ユラちゃんは、リッターくんに対するのとは違って、多少やわらかい声だ。リッターくんに対しては、きんきんに尖った声だった。
「明日までおかしかったら、その時はわたしがチャタラに頭を下げて、治療を頼むわ」
「あ……そう? 遠慮しなくても、いいよ」
「遠慮じゃないの。これは、わたしにも問題があったから」
問題。
なんと云ったらいいのかわからない俺から、ユラちゃんは顔を背けた。
「ちょっと、自分を省みてるの。もう少しうまいやりかたはあっただろうにね。少なくとも、このばかに、もっと自分の発言に気を付けるよう教育する必要はあったわ。機会もね。配下の失敗は主の責任ってものでしょ」
十秒くらい、みんな喋らない。
ほーじくんが低声で云う。「ユラ、あの……怒ってる?」
「わからないんならあんたってばかよ」
ユラちゃんはそう返し、右手首をさする。
「わたしがどうしてリッターを停めたのか、あんたが理解してないってことに、腹をたててるの。わたしや、サキの気持ちが、わからないんじゃあ、ああ……」
度肝をぬかれる、とはこのことだ。どうやらユラちゃんは、泣いているらしい。あのユラちゃんが。
ユラちゃんはけれど、こちらには決して顔を向けない。彼女なりに、見られたくないものなのだろう。
ほーじくんの眉が寄った。
「ユラ?」
「わたし、云ったでしょ。あんたがマオを……した時」
もう、幕屋は遠くはない。それもあってか、ユラちゃんは封印とはっきりは云わなかった。
俺が封印されたあと、なにかあったのだろうか。ほーじくんは、みんなに相当罪悪感を覚えていたみたいだから、なにかはあったんだろうとは考えていたけれど、それがなにかまでは考えてない。
「マオはあんたを大切に思ってるのよ」
ユラちゃんの声は小さい。風がそよとも吹いていないので、聴きとれた。
「あんたを一番、大切にしてるの。あんたが自分を傷付けるのは、マオの気持ちを踏みにじるってことなのよ」




