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ユラちゃんはくるっとリッターくんのほうを向いた。リッターくんが口をちょっと開け、なにかを云いそうになったが、その前にユラちゃんが云う。
「リッター、四つん這いになりなさい」
へ?
ユラちゃんはほーじくんの腕を掴み、ぐいっとひっぱった。「来るのよ、フォージ・ティヴァイン」
「あ……」
「来なさい!」
ユラちゃんの甲走った声が、夜気を切り裂く。耳がびりびりした。
ユラちゃんにぐいっとやられ、ほーじくんはたたらを踏む。ユラちゃんはそれを気にせず、ほーじくんを両手でひっぱっていった。ほーじくんも、ユラちゃんがどうやら怒っているらしいとわかったみたいで、数歩後からは素直に従っている。
ぽかんとしていた俺は、慌てて、小走りにふたりを追った。「ゆ。ユラちゃん?」
「リッター、わたしの命に背くつもりかしら?」
ひび割れた声だ。リッターくんはぼーっとユラちゃんを見ていたが、流れるような動作で膝をつき、そのまま地面に両手をついて、四つん這いになる。
ユラちゃんは鼻を鳴らしたが、満足そうではない。
「お前みたいなつかえない従者を寄越すなんて、わたしの気が長くなかったら戦になってるところよ。ほら、せなかをまっすぐにするの」
ユラちゃんは二回、リッターくんのせなかを踏んだ。リッターくんが体に力をいれたのか、二回目はあしが跳ね返されている。
ユラちゃんはもう一度鼻を鳴らして、リッターくんのせなかにのった。
四つん這いのリッターくんの上に、ユラちゃんが仁王立ちしている。ええと、どういうこと?
さらなる衝撃が俺を襲った。ユラちゃんは胸を張り、左手を腰にあてて、右手を軽くひき、ほーじくんの頬を平手で叩いたのだ。
声も出ない。俺は大口を開けてかたまっている。
ほーじくんも驚いたみたいで、目を数回、ゆっくり瞬かせていた。羽がしぼんでいるように見える。
ユラちゃんは不満そうに鼻に皺を寄せ、ぴょんと飛び降りた。「リッター、もういいわ」
リッターくんが無言で立ち上がり、膝から下についた砂をぱっぱっとはたきおとした。それから、両手の砂も。
ユラちゃんはほーじくんを叩いた右手を、握ったり、開いたりしている。多分、痛いのだ。かなりその……いい音がした。
リッターくんが小首を傾げる。
「何故、あのような格好をさせられたのか、訊いてもいいか」
「もう訊いてるじゃないの」ユラちゃんはぴしゃりと返し、リッターくんを睨む。「踏み台が必要だからに決まってるでしょ。そんなこともわからないの? それに、あんたの所為でほーじがばかな考えを持ったみたいだしね」




