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「でもよかったわ」
俺が笑いをこらえて変な顔になったからか、ユラちゃんはあらためてそう云った。
「封印が解けたってことは、あんたはたいした魔を持ってなかったってことじゃないのかしら? 封印されてたにしては元気だし」
「ああ、それはええと、後でね」
「またそれ? なにかあるんなら教えなさいよね。わたし、封印や悪しき魂についてなら、どんな情報でも欲しいんだから」
「うん。云えるようになったら云う」
ユラちゃんは肩をすくめる。俺はこらえきれず、くすっとした。
「なんなの……まあいいわ。ねえ、封印が解けた時、どんな感じだったかは、云えるのかしら? ほーじにも訊きたいんだけれど。封印が解けるってどんな感じなのか。あんた、夜のうちに居なくなったんでしょ。寝てても目が覚めるものなの?」
俺とユラちゃんは同時に、ほーじくんを見た。
多分、同時に吃驚したと思う。ほーじくんの表情がゆがんでいたから。
ユラちゃんが目をちょっと瞠る。
「ほーじ? なによ?」
「あの……違う。ぼく、」
ほーじくんは俺を見る。俺は首を傾げた。違う、とは。
彼は下唇を嚙む。項垂れる。ユラちゃんの手をはなし、すぐに、俺の手をはなす。
俺達は、砂の丘がもうすぐ終わる、というところで、立ちすくむ。リッターくんは少しはなれたところに居た。魔法の灯をひとつ飛ばして、じっと俺達を見ている。
「ほーじくん、どうしたの」
「ぼく、マオに戻ってきてほしくて」
ほーじくんの肩が震えた。ユラちゃんがいぶかしそうに、ほーじくんを見ている。「なによ、じゃあ、自分で封印を解いた訳? まあ、荒れ地から戻れば罪のない人間だってことになるけど、でも危険よ。なに考えてたの? 幾らマオに会いたいからって」
ほーじくんが激しく頭を振った。ユラちゃんはますますいぶかしそうだ。
「ほーじ、はっきりしなさいよ。なに? あんた、なにを云いたいの」
「……マオにもう一度会いたくて、それで、みんなにマオを、返さなくちゃって思って、だから」
ほーじくんはまた、言葉を切る。苦しそうな呼吸だ。
「だから? なによ?」
ユラちゃんの声にいらだちがにじんだ。ほーじくんは項垂れる。
「ぼくが死んだら、封印が解けるかも……リッターが、云ってたから。だから、東へ行けば、強い魔物が居るし、それで、行った。東」
早口で、ほーじくんの後悔をあらわすようなぐちゃぐちゃな構文だったが、ユラちゃんには通じたらしい。
ユラちゃんの眉がつりあがった。




