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「あの」
なにを云おうとしたんだろう。俺はそんなことを云って、黙り込んだ。無計画に走りだして、崖からおちたみたいな気分だ。言葉が出ない。
俺よりも砂の丘をのぼっているユラちゃんは、星明かりに照らされていて、その哀しげな微笑みがしっかり見えた。リッターくんはいつもどおり、無表情で、黙っている。ほーじくんがそれをちょっと、心配そうに見る。
ユラちゃんがちょっと動いて、逆光になり、表情が見えなくなった。
「マオ。あんた、魔王でしょう。それとも黒騎士かしら」
ほーじくんが震える声を出した。「ユラ、マオは悪くない。マオは」
「なに、云ってるのよ。あんたってほんとにばかなんだから、フォージ・ティヴァイン」
ユラちゃんは優しく云い、二歩、降りてきた。星明かりが再び、彼女の顔を照らす。表情も、声と同じく優しい。
「わたしは、マオのことを捕まえに来た訳でも、殺しに来た訳でもないわ。リッターもね」
「でも……」
「もっとはやくそこのばかが、マオが冒瀆魔法をつかってたことを教えてくれたらよかったのに」
ユラちゃんはリッターくんを横目で睨む。リッターくんはちょっと首をすくめるみたいにした。「お前に報告する義務はない」
「あんたに思慮を求めたのがわたしの愚かさよね」
ユラちゃんは肩をすくめる。わざとらしく、芝居がかった仕種だった。
俺とほーじくんは、目を合わす。どういうことかわからない。ほーじくんも、困惑した表情だった。
「マオがそのことを隠しておきたいようだった。なら、俺が喋ることはできない。どこからもれるかわからない」
「わたしが誰彼かまわずぺらぺら喋るとでも? わたしに限らずよ、リッター。ミュー、ジーナ、リオ、それにサキ」ユラちゃんはふうっと息を吐き、吸う。「ほーじも、あんたは信用してないってこと?」
リッターくんは棒を飲んだようになった。
三十秒くらい、みんな黙っている。それからリッターくんが云う。
「たしかに、俺の手落ちのようだ」
リッターくんにしてはめずらしく、とても沈んだ声だ。「そうだな。俺はお前達を信用できていなかったらしい」
「リッターは、悪くないよ」
ほーじくんが庇う。リッターくんがそれを見た。「ほーじ」
「ぼく、聴いてたら、ばかなことした。マオのこと殺しちゃってたかもしれない……」
ほーじくんの目が潤む。リッターくんは口を開くが、声は出てこない。
「だから、封印、つかえるようになったあとで、よかったんだよ。だから、リッター、ユラ、ごめんなさい」
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