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俺は泣きながら立ち上がり、ほーじくんのもとへ向かっていった。ひくっとしゃくりあげる。雷嫌いは、自分ではコントロールできないことだ。レットゥーフェルと戦った時は、極限状態で感覚が麻痺していただけで、雷を克服したのではない。
涙を拭い、足をひきずる。ユラちゃんが弾んだ声を出す。「マオ、あんた、ああ。さがしたのよ」
「フォージ」リッターくんの声は弱々しい。「お前……血が……」
「だいじょうぶ」
ほーじくんがエクシザからはなれた。エクシザはぶっと鼻を鳴らし、不満そうだが、その場に座る。ほーじくんは左腕から血を流していた。彼はこちらを向く。「マオ、リッターの治療、しないとだから……ぼく、チャタラを呼んでくる」
ほーじくんは俺の返事を待たずによろよろ歩き、飛びたった。幕屋の前へ降り立ち、なかへ這入る。
俺はぼーっとそれを見ていた。と、さくさくと砂を踏む音がして、腕を掴まれる。
ユラちゃんだった。
「ほんとに、本当の、マオよね?」
真剣に見詰めてくるユラちゃんに、俺はなにも云えない。質問の意図がよくわからない。ユラちゃんはもどかしそうだ。
「フォージ・ティヴァインが、マオに似た人間を見付けた、なんてばかな話だったら、わたしあいつの羽をむしってやるから」
「ほーじくんに酷いことしないでよ」
声がやっと出てくる。久し振りに会って、開口一番これか、と、自分にちょっと呆れた。
けれど、ユラちゃんは笑う。「なによ。ほーじを庇うなんて、やっぱりマオじゃない。マオならマオって、ちゃんと云いなさい。わからないでしょ」
「マオ」
リッターくんがゆっくりと、声を出す。
俺は、ユラちゃんとリッターくんを、交互に見る。リッターくんは息を吐いて、怪我でつらいだろうに立ち上がった。
リッターくんが俺に抱き付き、俺はリッターくんを支えられなくて砂の上に倒れた。
「り」
尻餅をついた俺の膝の上で、リッターくんは気を失っている。ずぼんに血がしみこんできた。
「こいつらしいわ」
ユラちゃんは廃帝花の実をかじりながら、リッターくんをブーツの先で小突いた。「ユラちゃん」
「マオは黙ってて。わたしはしばらくの間、こいつに相当迷惑をかけられてきてるの。そこの祇畏士さんとあんたのおかげでね」
ユラちゃんは皮肉っぽく云い、廃帝花の実を頬張る。りすみたいになって可愛い。
気温が下がってきたし、外に居たら魔物の襲撃のおそれがある。なので、俺達は幕屋のなかに居た。俺とほーじくんで苦労して運んだリッターくんは、ベッドに横になり、寝息を立てている。




