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馬車が停まる。「ユラ……?」
ほーじくんがつぶやくみたいに云った。俺は口半開きで完全停止。動けてない。呻き声も出ない。吃驚、とか、どうして、とか、いろんなことが頭のなかでぐるぐるしている。ユラちゃん? ユラちゃんが、荒れ地に居る。……はあ?
ユラちゃんは砂を払い落とそうとしているのか、じたばたしていた。なにかの踊りに見えなくもない。
彼女なりに、荒れ地に対応しようとしたのだろう。シアイルふうのドレス+毛織りのチュニックではなく、勿論制服姿でもない。なんと、男もののチュニックとずぼん、ブーツを身につけている。
ダストくんの格好-装飾品、という感じだ。異性装をいやがるひとが多いこの世界、随分思い切ったチョイスである。多分、ディファーズ人には眉をひそめられ、詰め寄られるような格好だ。
彼女の髪の毛は相変わらず、左右でちょっと高さの違うツインテールにしてあった。それがぴょこぴょこしている。肩にショールをまいているのは、おそらく頭にまきつける為のものだろう。
ユラちゃんはじたばたをやめた。もしかしたら、地団駄を踏んでいたのかもしれない。わからん。
御者台から、御者さんが降りてきた。結構、大柄なひとだ。ユラちゃんが馬車にのっていたってことは、御者さんはレフオーブル家に雇われたひとだろうか。こんなところまで、どうして……。
「なんなのよもう!」
ユラちゃんのきんきん声が響き渡る。荒れ地は遮蔽物がほぼゼロなので、少しはなれているのだがしっかりと声が届いた。
やっぱり、ユラちゃんだ。
ユラちゃんはまた、奇妙なダンスを踊っている。砂が服のなかにはいったのがよほど不快なのだろう。
御者さんがそれに近付き、ユラちゃんの襟首を掴んでひっぱりあげた。
「車が停まってから降りればいいものを。慌てるとろくなことがないな」
「煩いわね!」
あの声……。
ほーじくんがびくっとする。震えが伝わってきた。
「り。リッター」
御者さんが顔を覆っていた布をとりはらう。ほーじくんの言葉どおり、御者さんはリッターくんだった。
目付きは以前にも増して鋭くなっている。髪が少し伸びた、かもしれない。それに、ヘアアクセサリーをつけていなかった。リッターくんは、髪は短くてもいつだって、きちんと頭を飾っていたのに。それに、ちょっと痩せたかも……。
ほーじくんの手に力がこもった。俺はただ、ふたりを見ている。どうしてあのふたりがここに?




