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「まずそうなら、わたしは逃げるからな」
タスが云う。「こいつが離れてくれればいいが、無理ならつれていく」
「タス」
「これが見えないのか?」
しかめ面の俺に、タスは顎でニニくんを示す。ニニくんは眠っているのに、しっかりとタスの服を掴んでいた。俺は唸る。タスのなにがニニくんの琴線に触れたのかはわからないが、ニニくんは俺やほーじくんよりもタスを信頼できると判断しているらしい。無意識にこういう行動をとるのだから、相当信頼しているだろう。
リャクークがとたとたやってきた。ほーじくんも一緒だ。ほーじくんは幕屋の出入り口がわりの布を丁寧にたらし、なかが見えないようにする。リャクークはそわそわして、砂にもぐりこみたい様子だ。俺はそれを見ながら、言葉を選び、穏便なものを見付けだした。
「タス、ニニくんのことまもるの」
「問題が?」
「ないけど」
「お前が助けると決めた。お前の知り合いの兄弟なのだろう。お前に恩を返すことになる」
睨む。タスは目を逸らした。タス、なんだかんだいって、面倒見がよすぎる。こういうとこを買われて、群れの王さまになったんじゃないのか?
ニニくんの寝顔を見ていると、それ以上はなにも云えなかった。ニニくんはよっぽど、タスをはなしたくないようで、手は白くなるくらいにタスの服を掴んでいる。タスの困惑したような顔が面白くて、ちょっと笑ってしまった。
タスは理性的なので、ニニくんに危害を加えるようなことはないと思う。その点は心配ない。タスとニニくんふたり、しっかり安全なところに隠れられるだろう。
タスには偸利があるから、魔物と連戦しても、なかなか魔力切れは起こさない。戦ったことのある俺が、その厄介さは一番理解している。レットゥーフェルは強い。
つまり、タスが離脱したらこちらの戦力が大幅ダウンする。ほーじくんは強いけど、俺はビミョーだし、エクシザは本調子じゃない。でも、ニニくん達のことを思ったら、タスの提案は断れない。
なので、どうしようもない。
もし、祇畏士協会から送りこまれたひと達など、俺を排除しようとしている人間だったら、そこはもう腹をくくるしかないだろう。いやだけれど、だからってほーじくんにいやなことをおしつけるのはおかしい。
ほーじくんと一緒に居たいのは俺なのだ。俺が自分の意思でこうしている。
ならそれを、誰かに邪魔させるつもりはない。勿論、ほーじくんに対処してもらうつもりも、責任をおしつけるつもりもない。
俺はほーじくんと一緒に居たいから、自分で自分の面倒を見る。それだけだ。




