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どうしよう。
「タス!」
タスは何故か、ニニくんを右腕一本で抱えて、幕屋の外に立っていた。ニニくんはぐっすり眠っているらしい。俺の大声にも目を覚まさない。
「どうした」
慌てて戻った俺達に、タスは不審そうに云う。左手にはしっかり、槍が握られていた。「なにかあったか?」
「あの……馬車が見えたらしくて」
ほーじくんが継ぐ。「あにさまじゃない。だから、なにかわからないし、戦力はあったほうがいいと思って」
「いい判断だ」
タスはそう云って、俺に目を戻した。「なにか布をくれ。こいつらの額を隠す」
額を見せろと云われたらお仕舞だが、とにかくやるだけのことはやったほうがいい。俺はさらし木綿をニニくんの頭にまきつけて結び、幕屋のなかで眠っているミエラさんとカルナさんにもそうした。そうしながら、マルジャンとヤラ、それにエクシザに、ざっくりと説明する。
外へ戻る。ほーじくんはぴりぴりしていて、歩きまわっていた。砂に残った足跡でわかる。タスはニニくんを抱えたままだ。「タス、ニニくん大丈夫なの? 全然起きないけど」
「愁夢をかけておいた」
「は?」
思わず睨む。タスは不本意そうに鼻を鳴らす。
「泣きながら衣装を脱ぎはじめたんだぞ。それ以外にやりようはない。こうしていないとうなされるし」
あ……。
目を逸らした。ニニくん、体力と魔力が低くなってる所為で、時間の感覚がおかしくなってしまったのだろう。まだ、荒れ地に来る前だと思っているのかもしれない。
「いいけど、悪影響かもしれないし、控えて」
「ならどうしろと?」
「これ」
収納空間から眠り薬をとりだして、渡した。油紙で包まれた、粉末状のものだ。タスは槍を持った左手で器用にそれを掴み、ずるずるした服の懐へするっと滑り込ませる。
「服ませたらいいから。一包ね」
「あるならさっき渡しておいてくれ」
どうも、俺達もぴりぴりしているらしい。お互い、言葉がきついことに気付いて、低声で謝りあう。
精神的に荒れてもおかしくない。まったくもって奇妙な罪状であるといえ、ニニくん達は一応犯罪者で、刑罰として荒れ地に来ている。俺がホートリットやレットゥーフェルを「駆使」していても、極限まで追い込まれた精神では特におかしいとも思わない。
だが、西から向かってくるひと達は、おそらくは気力充分である。こんな大物ばかり「駆使」しているのはおかしいと思うかもしれないし、そもそもふたりきりで行なんておかしな話だと思うかもしれない。




