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今朝やっと、その可能性に思い至ったのだ。俺があほなのがよくわかる。
顔を洗ったり歯をみがいたりしてお水をつかった場合も、その範囲をタスに還元してもらうことにした。そんなように説明をすると、タスは納得したみたいで頷く。
「わかった」
「じゃあ、早速還元してもらえる?」
収納空間を開いた。それから、あ、と云う。「もしかして、あんまり還元すると危ないとか、ある? 魔物が来たりさ」
レントではたまに、還元過多で魔物がやってきていた。いや、たまに、でもないのかなあ。慣れちゃったし、警邏隊が居るから心配ないから、還元過多もたいしたものじゃないと思うようになっていた。
タスは頭を振った。
「いや、ここなら、還元してもさほど魔物はやってこない。すぐに世界に還るからな」
「そっか。じゃあ、やっても大丈夫だね」
「ああ。荒れ地は神の恩恵うすい地だからな」
ごみを収納空間から出していた俺は、手を停めてタスを見た。「神の恩恵?」
「ああ。開拓者の恩恵がうすい。だから、ここで還元をやりすぎるということはない」
俺が手を停めているからだろう、タスがこちらを向いた。「なんだ? 還元をしてほしいのではないのか?」
「あ、うん、してほしいけど」俺は半笑いになってしまっている。「タスから、神の恩恵って言葉が出るとは思わなかったから」
タスは魔物だ。魔物は端的に云って、人間からきらわれている。
それに、魔物のなかでも、タスは冒瀆魔法をつかえる魔物である。特に禍々しいものとして扱われているのは間違いない。
祇畏士は主の恩寵、というのを、どこかで聴いた。魔物、悪しき魂、そういう悪いものを滅する為に、開拓者が特別に善なる魂、祇畏士をつくったのだという考えだ。それが間違っているのか本当なのかは知らないが、人間はそう思っているひとが大半である。それで、祇畏士があんなにあがめられる。尊敬される。ニニくん達の反応は、決して特殊なものではない。こちらの世界の人間なら、平均的だと思う。ディファーズのひと達だしね。
だから、祇畏士を特別に用意して魔物への対抗手段を人間に与えた、と人間が考えている開拓者を、冒瀆魔法をつかえるタスがまるで信仰しているように云うのが、ちょっとそぐわない感じだったのだ。
いや、信仰しているように、じゃないな。なんていうんだろう。まるでくわしく知っているみたい。
少なくとも、開拓者について教わっているように聴こえる。もしかしたら、魔物でも、神話を学ぶのだろうか。




