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水気によってくるまるまっちい虫を、巡回から戻ったエクシザがついばみはじめた。同じく巡回に出ていたタスが、ずぼんの裾をまくりげてたらいのなかに立っている俺を見て、いぶかしげに云う。「まだ寝ていなかったのか」
「お洗濯してた」
たらいをゆびさした。タスは肩をすくめる。
エクシザが虫を食べ続け、俺はすべての洗濯ものを綺麗にゆすいでマルジャン達に乾かしてもらった。あしを拭いて靴下とブーツをはき、たらいは洗ってから収納する。
タスが怒ったみたいな声を出した。
「なにか考えているのなら、話せ」
「え、別に、なにもないよ」
「お前の頭のなかは誰にも見えない」タスは辛辣な口調だ。「云われなければわたし達はなにもできない。問題が起こってもわたしはなにもできないということだぞ」
心配してくれているらしい。それはわかったし、ありがたいとも思った。
でも俺は苦笑した。
「そうだね。タスにはなにもできないと思う。あ、悪い意味じゃなくて、タスじゃなくても誰にだって解決できないことだから」
「なんだ、そのものいいは……」
「これはさ、俺の問題なんだよ、タス。俺が臆病で、卑劣で、煮え切らないってことの問題。俺以外にはどうしようもない。問題をつくるのも、解決するのも、俺なんだから」
タスは鼻からふーっと息を吐き、不満げにはなれていった。俺はかさついた手にバームを塗り込み、お湯からはなれて途端に寒くなってきたので、ローブを羽織る。マルジャン達には、お湯と洗濯もの乾燥のお駄賃として、さつま芋を渡した。
と、タスが戻ってくる。「マオ」
「うん」
「先程の話だが」
ちょっと考え、また、苦笑した。「なあに?」
結構なことを云ってしまったし、タスは怒っていたみたいだから、まだなにかお説教のようなことを云われるのかと思った、し、そういうことを云われるだけの理由は俺にはあると思っていたけれど、そうではなかった。
タスは単に、俺をはげまそうとしているみたいだった。少なくとも、そういう口調に聴こえる。
「お前がなにを考えていようが、わたし達はお前に使役されている。お前の好むと好まざるとに関わらず、もうまきこまれているということだ」
「うん。まきこんで、ごめん」
「そうではない」タスは溜め息を吐く。「お前はわたし達に、いやなら使役を解除すると云った。わたし達はだから、すぐにでも自由になれる。けれど、今はそうしていない。それは、お前に恩があると思っているからだ」




