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いやがらせに、妨害。俺に対して行われたものよりも、もっと露骨なものが、ファズダさんの恋人には降りかかった。
そりゃあそうだ。その女性は、後ろ盾がなにもなかったみたいだから。俺にはセロベルさん、四月の雨亭、それにサローちゃんや、親しくしている傭兵達が居てくれた。たまたま、上流階級の家の子とも、結構知り合いになっていたから、それも大きかったと思う。
エンバーダート家もチェルノーラ家も、俺をジーナちゃんのお料理の師匠として扱ってくれていたし、レフオーブル家もロヴィオダーリ家も便宜を図ってくれたりしていた。かつおぶしとかな。それにサキくんだって貴族だし。
だから、なんとも云いがたい、中途半端な妨害だけだったのだ。俺の力じゃない。俺がたまたま、いい縁にめぐまれたというだけだ。だから、運がよかったのだ。
その女性には、気の毒なことに、そういう幸運は訪れてくれなかった。それで結局、その女性は具合が悪くなって、ファズダさんの前から居なくなってしまったらしい。まったくもって、気分の悪い話だ。なんの権利があって、法律違反でもないひとの恋愛に口をはさむ?
「それで……」
ほーじくんは唾を嚥み、ぐぐっと呻くみたいにしたあと云う。「ファズダあにさまは、そのあと二回、死のうとした。すぐにみんなで助けて……でもそれから、前みたいなあにさまじゃなくなっちゃって、お祈りしてるか、行に出てるか、魔物退治してるか、そういう……」
ほーじくんの目が潤む。お兄さんのつらかったことを話すのだ。ほーじくんだってつらい。
俺はしかめ面で、ほーじくんの腕を掴んだ。
「おにいさんは、気の毒だったね。本当に、酷いよ、ひとの恋愛を邪魔するなんて」
「……あの、そうおもう?」
「え? それ以外に、どう思うの」
ほーじくんは口をもぞもぞさせる。
「それは。……主に戴いた、命だから、自分から捨てようとするのは、罪だよ。だから、ととさま達で、そのことがまわりに知られないように、したから」
……あー。あー、そういうことか。
そうだ。信仰、宗教、そうだよな。ディファーズではそれが大切なんだ。だから、神に加護されているかがやかしい職業である祇畏士が、神聖公が気にいらないような出自のひとと結婚するなんてことはできない。何故なら宗教的に罪になる行いだから。
俺は頭を振る。
「それはね、ほーじくん。追い込んだほうが悪いと思うよ、俺は。お兄さんは、凄くつらいんだよ。そうなっても仕方ないと思う」
ほーじくんは俺を見て、ちょっとほっとしたみたいに頷いた。




