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俺達を騙すつもりなら、預かった指環だという必要はない。奉公人なんです、本国に里帰りしたらいわれのない罪で荒れ地おくりにされたんです、とでも云えばいい。
正直、なにか別の罪のほうが、荒れ地おくりの信憑性も高いように感じてしまうしな。だって、癒し手になるのを拒んで荒れ地おくりなんて、極端にも程があるだろう。
どこの地域にも裁定者が居るから、殺人の罪を着せられたとかは無理があるが、政敵に蹴落とされて、とか、対立している家に騙されて、みたいな話なら俺は信じた。し、大概のひとが信じると思う。そういう話は聴かないでもなかったし、実際経験もある。トリエーリ嬢みたいに友達を死ぬような目にあわせてまでジーナちゃんを破滅させようとした、世にもまれなばかも存在した。
まあな。小さな利益とか信用はどうでもよくて、自分でそう思い込んでいるとか、俺達を安心させる為に嘘を最小限にしているとか、いろいろ可能性はあるけど、でもやっぱりあの三人は信用できると思う。
ていうか、信用したいのか。
荒れ地をひたすら、西へ向かうというのは、精神的につらいものがある。そういうなかで、これ以上騙されたりなんだりはしたくないという、心理的な防衛機能みたいなものが働いているのかもしれない。
だとしてもやっぱり、俺はあの三人は信じることにしている。ルクトくんに恨まれたくないから。
気温が少し、あがってきた。
「酷いね」
砂から突き出した、なにかの骨らしきものを見付け、俺はそれへ近付いていく。「癒し手になったのに、結婚しないからって」
ほーじくんと話すことが、今はそれしかないように感じられたのだ。だからそう云った。
「公は、ご自分の意見を通すことに、慣れておいでだから」
ほーじくんはまるで自分がわがままや無茶を云ったみたいに、申し訳なげにぽつぽつ喋る。その言葉が、普段のほーじくんから考えられないくらいに丁寧で、神聖公がどれだけの力を持っているのか、俺は認識をあらたにした。
それから、申し訳なそうなのは、神聖公が悪しき者達を滅することを度々云っているらしいからかな、とちょっと思う。悪しき者と同じ空気を吸うだけでそれが伝播すると、ディファーズのひと達は考えているみたいだし、それはなににつけ清らかでいようとする神聖公の言動が大きく関わっていると思う。
神聖公というのは、ディファーズ臣民のロールモデルなんだろう。みんなが神聖公のようになろうとする。清く、正しく、魔を滅する。
ほーじくんが俺に謝る必要は、やっぱりない。ほーじくんは悪くない。




