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勿論俺は、癒しの力があっても癒し手になることは不利ではない、ということを知っている。癒し手になれば、癒しの魔法の威力が高まる。
病気には、一回の魔法で完全に治さないといけないものが存在する。そうしないとぶり返し、治らない。癒しの魔法の効果が高いかどうかは、重要なことだ。
だから、神聖公が癒し手になれと推奨するまでは理解できる。
だが、いやがっているのを無理に癒し手にしたり、ならなかったら罰するというのは違う。
けれど実際、そういうことが起こった。
ニニくんは、御山へ出す書類で、志望の職を書かなかった。本当は魔導士になりたかったが、こわくて書かなかったのだ。入山できたら御山に保護してもらえるから、癒し手にならなくても大丈夫だと考えていたらしい。
こちらの世界の罪の裁きかたは、決まっている。裾野人はどこで捕まっても裾野に送還されて裾野で裁く。裾野で起こった犯罪は何人が起こそうとも裾野で裁く。ただし、重大犯罪の場合、裾野での判決にくわえて本国での判決も追加されることがある。
だから、裾野に居れば、癒し手になることを拒んでいても平気だと、そう考えていた。
ところが、ニニくんが書類に志望の職を、それも二年連続で書かなかったことが、どこからかもれた。
ニニくん達はそれを知らず、召喚されて本国へ戻った。国境を越えて神聖公国に這入った途端、捕縛され、裁判が始まり、ニニくんは強制的に井での宣言をさせられ、癒し手になった。
「それじゃあ」
「それですまなかったんです」
カルナさんが呆れたみたいに肩をすくめる。話をするのは主にニニくんだが、彼はたまに口ごもって黙り込むので、そうなるとカルナさんが話を継ぐ。
カルナさんは黙り込むニニくんを見て、ふうっと息を吐く。
「わたしとレティアニナは、いとこなんですけれど、結婚するようにと公から命ぜられました」
俺は口を半開きにし、ニニくんが硬直から脱した。
「カルナには恋人が居るんです」
「居た、だわ」カルナさんはもう一度、肩をすくめる。声はからっとしていて、湿っぽさはない。「公から命ぜられたことがわかった段階で、もう関係は壊れていたの。その上に、荒れ地おくりだもの。あのひとはわたしとちょっとだって言葉を交わしたこともないふりをするわよ」
それはいかにもありそうなことで、誰も否定しなかった。実際のところ、恋人が荒れ地おくりになったら、関係自体なかったことにするのが神聖公国では安全だろう。家族が荒れ地おくりになっても、同じ対応をする。




