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レントで二回、騒動に巻き込まれた。ディファーズの上流階級、ワネッド家とハイオスタージャ家の、若さまだとか使用人だとか私兵だとかが喧嘩になった、というのに。
その騒動は、ハイオスタージャ家の嫡男が、癒し手になるのを拒んでいるのではないか、という疑いがきっかけで起こっている。
ディファーズにおいて、癒し手になれるのにならないのは、「おかしな信仰を持っている」ことになりかねない。
神聖公をトップに置いて、その言葉を大切にする国だ。神聖公は、癒し手、祇畏士、還元士、そのみっつの職業は、なれるものならなるべきと考えている。
だからディファーズで、癒し手と祇畏士と還元士は、なれるのにならない場合、罰せられる。酷いと、荒れ地おくりになる。閉門、という可能性さえ、ある。
俺は深く頷く。ほーじくんがまた、かすかに前後に揺れている。
「信仰告白……ですか」
「ごぞんじですか?」
ミエラさんが目をしばたたいた。俺は頷く。三人はさぐるように、俺の顔を見た。顔、というよりも、額を、だな。
俺の額には、槍のようなしるしはない。それでもまだ、三人は、俺の額をしばらく見ていた。
ほーじくんがそれで気分を害したらしく、軽く唸って、俺の頭を抱えるみたいにだきついてきた。「マオをじろじろ見るな」
三人は口々に謝った。ほーじくんの腕がゆるみ、三人の怯えたような表情が目にはいる。ほーじくんは、謝罪されたのに、まだ不満そうだった。
俺はほーじくんの腕を、軽く撫でる。「ほーじくん」
「……マオに失礼だよ」
ほーじくんは小さく云って、俯いてしまった。どうにもぴりぴりしている。髪がいつもよりふくらんで見えた。
俺はほーじくんの髪を軽く梳きながら、三人へ目を戻した。
「簡単でいいので、経緯を聴かせてもらえますか」
レティアニナ・ハイオスタージャ。それが、男の子の名前だ。ニニというのが愛称らしくて、ミエラさんはニニさまと呼んでいる。もうひとりの女性は、カルナさんと云うそうで、やっぱりハイオスタージャ家のひと。
ニニくんは十歳前後から、入山を目指し、一年の三分の二くらいをレントですごしてきた。親は当然のように、ニニくんに癒し手を目指すことを強要したが、レントですごす時間が長くなれば長くなるほど、癒し手を目指すことに疑問を感じていく。
ニニくんにはそもそも、癒しの力があったのだ。だから、魔導士になったり、戦士になったりと、なりたいものは沢山あった。癒しの力があるのに癒し手になるのは無駄だという考えは、根強いからな。
感想ありがとうございます。はげみになります。




